第29話 ちゃ・・・ちゃうんや


 私はこのレストランのオーナー。


 いや、私の事はどうでもいい。どこにでもいるしがないレストランのオーナーなだけだ。大貴族を店でもてなし、ある程度のコネを持っている程度の。


 この店は大商人や貴族向けに用意されているレストランではあるが、私の趣味が高じて必要最低限の権利を持ち、必要な分の金を持っているのならば私が作ったデザートを店の外で売る事も辞さない。


 お蔭で下々の者達からもそれなり以上に評判になっている。


 だが、あくまでもその恩恵に預かれるのは平民以上であり、私のデザートを購入するつもりなのならば最低でも大鉄貨を十枚以上は見てもらいたい所だ。それも出来ないのであれば諦めてくれ。


 今のこの時間はどこの予約も入っていない為、コックたちは夜に向けての仕込み中だ。我が店は最高の料理と最高のもてなしがモットー。その為に下準備は欠かす訳にはいかない、1秒たりとて無駄にする訳にはいかないのだ。


 とは言え私の仕事は夜の貴族への接客とデザートを作る事のみ。


 店の中から外を見れば市民たちがあくせく働いているのが見える。立場こそ同じ市民ではあるが、私と彼等では格という物が違うのだ。


 私の最高傑作ともいえるデザート、【ナルファート】はこの国の王妃と王女にすら絶賛を頂いた代物なのだから。このデザートがある限り私の店は安泰と言えるだろう。


 これからも我が店は躍進を続けていく。いずれはこの国だけではなく、全世界に私の店が・・・と考えていると店先に誰かが来ているのが見えた。


 デザートを求めている一般客だろうか。うちに来る客は大体が護衛等を引き連れた大人数で来るからな。


 また一人私のデザートの虜になるものがあら・・・わ・・・・


 う、美しい・・・!


 まるで、まるで3年前に亡くなった愛娘の生き写しの様な・・・!!


 そこにあるだけで人目につく、あの子に適当に作ったデザートを渡して追い返すだと・・・!? 私には出来ない! そんな事私にはああああああああ!!


 彼女は我が店の客だ!! 何?! たった一人? 見た目が貧相?? しったことかああああ! 私がオーナーです!! 私がルールだああああああああああ!!!



 ・・・・はっ?! ぶ、部下たちが見ている・・・・





 ちゃ、ちゃうんや・・・・











 こほん。少々取り乱したが、店の中に咲く一輪の花がそこにある。


 美しく、可憐であり、そして儚い。


 その顔立ちはますますもって亡くした愛娘そのものだ。


 彼女はオイシミと名乗り、たどたどしくも私に訴える。ここのデザートが食べたくて来た、と。お金はちゃんとある、と。


 なんという僥倖・・・! 何という幸運・・・!


 私が本来このナルファートを作った理由はまさしく、死の淵に立ち、過ぎを迎えかけていた愛しい愛娘の為。窶れにならないように厳重に奇跡を施してもらってはいたが、病気により死へのいざないはどうしようもなかった。


 私の料理を美味しいと食べてくれた愛しい娘。妻も先立ち、たった一人の娘だったのだ。せめてせめてあの子が妻のもとに旅立つ前にと、私が出来る全てを用いたのがこのナルファートだった。


 結局、完成する少し前にあの子は旅立ってしまったが。


 もしかしたらこの子はあの子の生まれ変わりなのかもしれない。それほどまでに似て・・・いや、あの子以上にオイシミと名乗る少女は美しい。見た目は幼い筈なのに、その姿は深層の令嬢とすら思わせる。


 会話をするのが苦手なのだろう、か細い声でだが確かに天使の様な声色が聞こえる。あの子が生きていればこの子の様になっていただろうか。


 さて、彼女が求めるのであれば作るしかないだろう、私の最高傑作を!!


 金など気にしなくていい。私が君に食べさせてあげたいだけなのだから。


 今の世の中では手に入れる事すら困難な砂糖をふんだんに使い、様々な手腕を用いて作成した傑作を、食べてみるといい!




 ・・・・あれ?


 ・・・・あまり喜んでない???


 ・・・・王女たちはこのデザートを数分もせずに食べきって寧ろお替り迄要求してきたのに。王女、この世界では王族や大貴族でもなければなりえない体格、肥満になっていたが、それと関係があるのだろうか?


 まさか・・・く、口に合わないのか??


 今までそんな事はなかった、誰もがこのナルファートを食し、その感動的な甘さに喜んでいたのだ! 何が・・・不満なのだ?


 私も料理人、食べた人間の表情で食べている料理が好まれているか好まれていないか理解できる。万人に喜ばれる最高のデザート・・・が彼女には合わないと。


 怒りは湧かない。


 これが舌音痴の商人や下級貴族ならば追い出したかもしれないが、目の前の少女にはそんな事など出来なかった・・・聞きたい、何が足りなかったのかを。


 もしかして私のナルファートは、まだ完成していないと・・・! 


 半分ほどたべたオイシミは、小さな声で私に天啓を齎してくれた。












 我が最高傑作【ナルファート・オイシミ】は今まで以上の売り上げと絶賛の声を浴びる事となった。


 あぁ、我が天使よ、オイシミよ。


 いつでも来てほしい。


 その笑顔と、その確実な舌を、私に示してくれ。


 ちなみに王女がやってきて、ナルファート・オイシミを10人前ほど余裕で食べていった・・・ばけものやん




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同僚がアルフォート食べてたので(何

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異世界でTS幼女はおいしみを食べたい あさねこ @asanekoyaruosure

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