第10話 数年後……

「なぁ、昔トバリアで会わなかったっけ?」


 レオンがそう言われたのは、南方のナプラの街の酒場でのことだった。


「ああ、塩のことを色々教えてもらったな。南方まで来れたのか、おめでとう」


 塩商人を同じテーブルに座らせ、麦酒をおごる。

 話を聞いてみると、相変わらず塩ばかり扱っているようだ。最近は味を見なくても手触りで産地が分かるようになってきたと自慢された。あまり商売には関係ないような気もしたが、褒めておく。

 すると調子にのったか、あちこちの塩を出してきた。


「これ知ってるか、トバリアで最近売り出し中の塩でな」


 袋から皿に塩を盛る塩商人。

 少し黄色がかった粉をつまみ上げるレオン。口元まで持っていくと、かつて嗅いだあの匂いがした。


「やー、あんな塩気の薄い海でよく作るよな。作り方は秘密らしいんだが、どうしてこんな旨いんだか。この薄黄色に秘密があるのかね」

「薄黄色じゃ味気ない」


 塩を舐めてから、言葉を続ける。


「琥珀色って言いな」

「琥珀色か。良いな。『北の海でとれた琥珀色の旨味。魔女印のトバル海塩』でどうだろう」


 塩商人は売り文句をひねりはじめる。

 レオンは、塩の入っていた袋を見た。袋の真ん中に、箒にまたがった魔女のシルエットがある。


「魔女印か」


 袋の魔女の長い耳を撫で、レオンはあの日のことを思い出す。


「じゃあ、塩の魔女に乾杯」


 はるか北西で今も塩づくりをしているであろう仲間に向けて、杯を傾けた。

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塩の魔女 ただのネコ @zeroyancat

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