かくれんぼ

透峰 零

かくれんぼ

 母から聞いた話だ。


 今は移設されたが、母の通っていた小学校はとても古く、戦前は火葬場だったか墓場だったかで、怪談話には事欠かなかったらしい。

 やれ用務員さんが夜の廊下で人とすれ違う気配だけ感じるの、誰もいない教室から笑い声だけ聞こえるだの、そういう話を母もよく聞いていたそうだ。


 これは、そんな母が小学校四年生の時に体験した話である。


 その日、母は体育館の掃除当番だった。早々に掃除を終わらせた同じ当番の子達と、残り時間でかくれんぼでもしようという話になったという。

 じゃんけんの結果、母が鬼となった。

 皆が隠れる間、鬼は目を瞑り、数を数える。だが、目を瞑る直前に、母は一人の女の子がステージの方に行くのが目に入った。

 白いワンピースを着た、小柄な女の子だ。

 これは嬉しい誤算だ、とほくそ笑みながら母は目を閉じ、皆が隠れ終わるのを待った。

 全員の「もういいよ」の声を聞き終えた母は、もちろんすぐにステージの方に向かったという。

 ところが、どれだけ探しても件の女の子が見つからない。ステージだけでなく、他のところを探してもその子だけが一向に見つからないのだ。

 それどころか、母以外の誰もそんな女の子は知らないという。

 体育館の扉は分厚く、第三者が出入りすればすぐに分かるはずだ。


「確かに見たんだけどねぇ。今思えば、あの子は違ったのかもしれないわ」


 今でも母は、厚い緞帳の向こうに消えていく女の子の姿をはっきりと思い出せるという。

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