第3話

「やあ、お帰り」


 ナンテが出迎えてくれた。口角を上げている。嫌な奴だ。俺のミッション失敗が嬉しいのか。お前なんか大失敗したくせに。


「もう、なんでそうなっちゃうのかな」一転してナンテは肩をがっくり落とす。


「そうだね」


 円い窓から青い惑星が見えている。


「こっちはさ、温暖化を止めるはずが、オーバーランして氷河期になるとはね。びっくりしたよ」笑い声を上げながら、引き攣った顔をしている。


「おい、ナンテ。わざと失敗したんじゃないか?」


「なんの話?」

 視線をあわせない。惚けているようにみえる。


「だって、ジャージャーマンが現れて――毎回そんなこと――そのたびにフォローして――うーん。まあ、いいか。俺のほうだって、装置を改造して温暖化環境に戻るなんて大笑いだよ。〝地球を以前の世界にする〟というお題だったよな。ならば俺の勝ちだ」


「いやいや、氷河期も大昔にあったからね。私の勝ちでもある」


「となると、また引き分けだ」

 顔を合わせて「なんてこった」と溜め息を吐く。


「でもさあ、大昔、火のおこし方を教えたときは感動したよね」


 ナンテは相づちをうった。

「驚きと喜びに溢れていた」


 当時を思い出す。燃える枝を手に皆に見せびらかしていた。目の輝きと自信に満ちた表情を今も覚えている。コッターたち二人も凄く興奮した。あのときから勝負が始まったんだ。勝負した回数なんて、忘れてしまったけれど。


「技術を授ける代わりに何かを受け取っていた。俺たちがなくしてしまったものだ。でも最近は違う。裏目に出ているというか。何処で間違えたのかな」コッターは腕を組んで首を傾げる。


「最大の過ちは、核分裂のヒントを与えてやったら、爆弾を作ったことだね。地球人はとんでもない奴等だ」ナンテはアヒルのような口をする。


「違いない。そっちにいっちゃう? ってね」

 コッターは笑った。


「さて、どうする?」ナンテが見つめてくる。


「我が家に帰りたい。身体をオーバーホールしないとね」


「そうだね。私も地球の空気を吸って、肺がおかしくなっている。それと右肩と右足も調子が悪くなった。交換したい」


「では、母星に帰還しよう。そして、五十年後、ここに寄ってみよう」

 コッターは操縦席に着いた。


「五十年後か――ジャージャーマンのような奴等によって、地球人は滅んでいるね」とナンテが言う。


「また、とんでもないことを言いだすね。確率でいくと、リバティ教授のような研究者が良い方向に導いているだろうね」

 彼女の温和な表情を思い出しながら反論する。

 エントロピーの増大を加速させたり、コントロール不能にさせたりする科学者、乱雑や混沌にさせたあげく、全てを無に帰してしまおうとするジャージャーマン。リバティはそんな彼を包み込める暖かさを持っているんだ。地球人は大丈夫に違いない。


「よし勝負だ。日本製カップラーメンを一週間分で」と自信満々なナンテ。

 

「望むところだよ」

 地球人が滅んでいたらカップラーメンなんて手に入らないんだけど。さては……。


 コッターの操縦で宇宙船は地球を離れた。〈終〉

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ナンテとコッター 辻村奏汰 @Tsujimura_Kanata

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