第13話 野球部活動開始!

月宮高校野球部は1年生が全然居ないという危機的な状況から、草薙中学野球部の黄金世代を補強することとなり、大幅に戦力アップとなった。


それにより、野球部の練習も本格的にはじまるのだった。


「さあ、新メンバーも増えたところでいつも行う基本的な練習の説明からしようか」


皆に説明を始めたのが、3年の車田キャプテンだ。野球部の部長らしく、1年生への気遣いも忘れない。


「基本的にはまずアップと準備体操から始めベースランニングの後のキャッチボールを必ず毎日やる」


その後の練習メニューはペッパー(と呼ばれる打撃と捕球を同時に行う練習)・守備練習・ノック・ケースノック・ケースバッティング・フリーバッティング・特守・筋トレなどを組み合わせ練習を行うのが月宮高校流の練習メニューとなっている。


さて、練習メニューの説明もそこそこ実際に練習へと移るのだが、久しく運動をしていなかった1年の連中にとっては出始めのアップからベースランニングまででも十分にきつかった。


「あー、やっべ体完全に鈍ってるなこれ。もうキツイぞ」


「はあはあ、本当だね次郎。僕もベーラン(ベースランニング)がこんなにキツイとは思ってなかった」


特に、中学を卒業して全然運動をしていなかった次郎と昴にとっては、厳しいようだ。


「あんたらいくら何でも鈍り過ぎでしょ? 宗次郎を見習いなさいよね? 同じように遅れて入部してるのにピンピンしてるわよ」


らぶりが言うように、久々に野球の練習をやっているはずの宗次郎は何故かこの練習についていけそうであった。


「俺は文珠のコソ練に付き合って体動かしてから鈍ってないんだよ」


これを聞いたらぶりは、新たに発覚した新事実に驚いた。なんと、文珠のコソ練相手は宗次郎だったのだ。

よくよく考えれば、親友と言える立場の宗次郎が文珠に付き合うのは当然と言えば当然なのだが。


「なんだかんだ言っても野球のやる気めっちゃあるじゃない文珠。やる気なさそうだったのは完全にフリだったのね」


「てか、お前宗次郎だけじゃなく俺らも練習誘えよ。春休み中、暇してたんだぜ? 遊びに誘ってもノリが悪かった理由はっきりしてすっきりしたけどな」


「僕はいつでもやる気あるっつーの。あと、計画は知ってやつ少ないほうがバレにくいだろ? だからしゃーないのだ」


などと文珠達がじゃれていたが、流石に騒ぎすぎであった。


「おい、1年! いつまでもくっちゃべって無いで練習に集中しろ!」


「「「「「「すいません!」」」」」」


皆、仲良く怒られてしまいましたとさ。練習中は私語は控えるのべきなのは小学生でも知っていることである。



それから、心を入れ替え練習に集中し全てのメニューをこなした1年坊主どもであったが、最後にはヘトヘトで立つのもやっとといったところだ。


「はあはあ、やっぱりキツイな」


「う……ん、これはヤバイね。明日から死ねそうだ」


死にそうくらい辛いという軟弱なことを言う次郎と昴に叱咤激励してやりたいらぶりであったが、こちらも状態は似たようなものだった。

二人のように鈍ってはいなかったが、女子高生が男子高生と混じって練習するというのは本当に大変であった。

練習についていくだけで精一杯だったのだ。


「なるほど。君たちはまず、体力作りの練習メニューから始めたほうが良さそうだね」


ヘトヘトな彼らにそう声を掛けたのは、白髪が目立つ眼鏡をかけた壮年の男性であった。

長身であるがひょろっとした体で野球というかスポーツに関わる人物には見えず、どちらかと言えば文系の印象を与える見た目である。


「えっ? 麻生先生? なぜこちらにいらっしゃってるんですか? 化学工学部の話で何か?」


その男性にいの一番に反応したのは昴であった。見た目通り化学工学部に関係する人物のような反応である。


「はっはっは、今日は化学工学部の顧問として来たわけではないよ。一応、私は野球の監督と部長も兼任していてね。今日は、一年生が練習に初参加するということで様子見に来ていたんだ」


この壮年の男性、化学教諭の「麻生 重信」はなんと野球部の監督権部長(と化学工学部の顧問)であった。

そのことは、化学工学部員の昴や次郎、後は宗次郎も知らなかったようで驚きの表情を浮かべていた。


「人手が足らなくてね。元々は化学工学部の顧問だけだったのですが、こうして野球部にも駆り出されたというわけです。まあ、こちらへは偶に顔を出すくらいで申し訳ないのですが……」


「いえ、野球部の顧問のなりてがなかなか居ない中、引き受けてくださり感謝しかありませんよ」


車田キャプテンはその辺の話に詳しいのか、どうやら麻生監督には本当に感謝していると言った感じだ。

確かに化学工学部の顧問と野球部の顧問の両方を担当しているとなればかなりの重労働であることは、高校生でも推察できることである。それを壮年の男性がやっているとなれば、感謝しかないというのも当然だろう。


「車田キャプテン。それで、話を戻すけどね。赤羽 昴さんと鈴木 次郎さんは、私の見立てだと基礎体力が足りないから練習メニューは基礎体力をつけるものにしばらく変えてください」


「わかりました。……それで、後の1年生はどのようにします?」


「高樹 宗次郎さんは、基礎体力もありそうなので先輩方と同じメニューでいいでしょう。真田 らぶりさんは基礎体力が足りてなさそうですが捕手ですからね。捕手練習のメニューをあてて、基礎体力強化は少しずつ進めていきましょう」


この監督、野球にもスポーツにも関わったことがこれまでの人生で無さそうな人物であるのに、あっという間に状況に合わせた適正な練習メニューを組める当たりは只者ではなさそうである。


「そして、桜井 文珠さんについてですが……今さら練習メニューの補足は必要ないでしょう。ここの誰よりも体力があり、野球にも一番詳しいのです。好きに練習させてあげましょう。オーバーワークのような印象を受けたときは報告してください」


バシン! と、エグい投球音がその時鳴り響いた。


他の1年生がヘトヘトの中、文珠だけは元気に投球練習をしていたのだ。

この監督をして特別扱いを受ける「桜井 文珠」という人物は、やはり只者ではないのだろう。


皆が、らぶりがそう思う中、彼はいつまでも投球を続けるのだった。

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