御坊会④
S島は400名ほどの島民が暮らす小さな島だ。主産業は漁業で、タコとワカメが名産だという。島にはホテルはなく、宿泊場所としては民宿が3軒ある。
フェリーから島に降り立ったのは私たちを含め10数名ほどであった。観光客らしきグループと島民と思しき人々。
フェリー付き場には小さな観光案内所があり、私達は地図を手に取ると、とりあえず今日の宿泊施設まで向かうことにした。島は起伏がほとんどなく、平べったい形をしており、別名を「皿島」ともいう。
民宿につくと、主人と思しき男性と役場の職員が我々を出迎えてくれた。形式上公式な文化財調査ということらしい。私はT氏の助手という扱いで紹介された。
荷物を置くと、早速我々は公民館で保管されているという古い絵巻物を観に行くことになった。T氏いわく、今回の表向きはこの巻物の調査らしい。
カメラで巻物の写真を撮り、調査は2時間ほどで終了した。さて、次は何をするのだろう、と思っていると、泉さんが島にある古寺院を調べたいといい、役場の人と共に行ってしまった。
残されたT氏と私は、とりあえず今回の目玉である謎の手紙について調べるため、島の暮らしの聞き取りという名目で、紹介してもらった「村長」と呼ばれている自治会長の家を訪ねた。
自治会長の家につくと、早速島の暮らしについてT氏が聞き取りを始めた。島にはスーパーはないため、フェリーに乗って本土に買いに行くか、週に1度港にやってくる移動スーパーに買いに行くほかは自給自足だという。
その後もT氏は私が感心するほど上手に様々な事象について聞き取りを行っていく。まさにプロの聞き手と言った感じであろう。
その間私は何をしているかと言うと、相槌を打ちながらボイスレコーダーで録音をしている。
場がかなり打ち解けて和んできた頃、T氏は本題に入った。
「そういえばA島には御坊会という互助組織があるみたいですね。S島にもそういうのはあるのですか?」
「A島の御坊会みたいな何でもやります〜という組織はS島にはないね。消防団はあるけどね。あんなA島みたいに若い男が寝泊まりして、漁業の修行をするような時代でもないよ。先生、御坊会なんてものよく知ってたね。」
御坊会というワードがでた瞬間、一瞬自治会長の顔が曇った気がしたが、気のせいだろうか。T氏が続ける。
「実はA島の島民に御坊会について聞いたという研究者が過去にいまして、その研究者が調べたところ、御坊会についてA島の島民は知らないというらしいんですよ。何か御存知ですか?」
「ほー、それは知らなんだ。A島では御坊会はないことになってるんですか。ほー。別に隠すようなことでもないと思うけどね。まあ島には島のルールがあるから、そういうルールなのかもね。」
「ちなみにS島の人はA島と交流があるんですか?」
「いんや、ほとんどないね。昔は漁場でよく揉めてたらしいけど、今は漁業権がしっかりしてて、ぶつかることもないね。それにS島の子どもは〇〇中学校へ行くけど、А島は△中学校へいくから、特段島としての交流はないね。」
「わかりました。ちなみに、御坊会のことについて過去お話を聞きに来た研究者っていましたか?」
「あー、なんか10年ほど前に若い男の人が聞きに来た気がするが、忘れちまったな!ごめんね!」
「ありがとうございます。最後に田口という男性はこの島にご在住でしょうか?」
「いや、田口って苗字はいないな。」
「わかりました。ありがとうございました。」
私とT氏はお礼を言うと、自治会長のお宅を後にした。
この世の迷い人 宇山雪丸 @douganhoushi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。この世の迷い人の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます