御坊会③
フェリーに乗った私達は、潮風に揺られるデッキで海を眺めていた。私はT氏に本題について尋ねた。一体何をしにS島にいくのか。
T氏は一冊の冊子を渡した。
「付箋が貼ってあるページを開いてみろ」
私は言われるがまま付箋のページを開いた。
『御坊会について』というレポートが載っていた。筆者は「田口」というらしい。
「御坊会?」
私が尋ねるとT氏は黙って読めと言った。
そこにはA島に存在すると言われる御坊会と呼ばれる共助組織について書かれていた。
「何だか不思議な話だな。A島では存在しないと言われている組織が、他の地域ではA島に存在すると言われているわけか。」
私は冊子をT氏に返した。
「だけど御坊会が目的だとしたら、なぜ俺達の目的地はA島ではなくS島なんだい?さっきのフェリー乗り場からならA島にも行けるだろ?」
私がそう尋ねるとT氏はタバコを取り出し火をつけゆっくりと語りだした。
「そのレポートを書いた人は俺の学生時代の先輩でな。たまに遊びに連れて行ってもらったよ。御坊会について調べていたが、途中からゼミに来なくなって、結局そのまま中退したのよ。」
T氏は「ふぅ…」とタバコの煙を吐き出すと、ジャケットの胸ポケットから封筒を取り出し、私に渡した。
私は封筒を受け取り、中身をみた。
封筒の中には1枚の便箋らしき紙が入っている。開けてもいいか?と尋ねると、T氏は目で頷いた。
そこには赤く大きな文字で「S島」とだけ書かれていた。
「これは…」
私がそう呟くとT氏は封筒の裏を見るように言った。私が封筒を見ると、差出人はあのレポートを書いていた「田口」という人のようだった。
自分の体に湧き上がる言いしれぬ寒気と好奇心を感じつつ、T氏をみつめた。
「差出住所はわからないが、消印はS島の郵便局だ。おそらくこの差出人はS島にいる。田口さんはA島の御坊会を調べるため、隣の島であるS島にも確かに行っていた。
俺に手紙を出した人、それが田口さんなのか、なぜ俺宛に急に連絡をしてきたのか、なぜS島なのか、わからないことばかりだ。だけど、こういう恐怖と好奇心の狭間に迷い込む感覚、お前も好きだろ?」
T氏は携帯灰皿でタバコを消すと私にはにかんだ。私も黙って笑い返した。
「ところで、泉さんはこのことを?」
私が尋ねるとT氏は首を横に振った。
「一応職場には文化財調査という名目で予算取ってるからな。あいつは本当にただのフィールドワークだと思ってるよ。」
そう言って笑うT氏であったが、私は無邪気そうに船酔いしている泉さんを少し遠い目で見ていた…。
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