お面

緋雪

奇妙な車

 夫と外食に行った帰りのドライブ中のことだった。

 時々、こうやって外食デートするのが、結婚16年経った今でも、私にとっては楽しみの一つだ。


 私たちは、笑いながら他愛のない話をしていたのだが、時々、夫が舌打ちをするようになった。

「どうかした?」

「前の車がな、スピードを上げたり下げたりが激しいんだ」

 暫く見ていると、時速70kmで走ったかと思えば、40kmくらいになる。これを繰り返しているらしい。


「気持ち悪いね。酔っぱらいかな?」

「今度スピード落とした時に抜くわ。これ、俺が事故るかもしれないし」

「追突されたって言われたら、面白くないしね」


 次に前の車がスピードを落とした時、夫はスピードを上げ、追い抜こうとした。

 すると、その車もスピードを上げ、横に並んだのだ。

「馬鹿野郎!!」

 夫は、更にスピードを上げ、なんとかその車を抜き去った。


 追いつかれないように、物凄く前に出た。

「なんだったんだ、今の車?」

「怖かったね」

「どんなヤツが運転してたか見たか?」

「う、ううん。よく見えなかった」

「そうか……それにしても、なんて運転するんだ、あっぶねえ」

 北海道の片側1車線の道路だ。一つ間違えれば、対向車線の車と正面衝突する危険もある。


 夫は、ずっと機嫌が悪く、文句を言いながら帰った。

 

 でも、私は見てしまったのだ。


 その車の運転手は、黒い布を被り、縦長の真っ白な大きなお面をつけていた。丁度、ジブリ作品の『千と千尋の神隠し』の中の「カオナシ」のように。


 そして、一瞬、私の顔を見て、その、のっぺりとして、赤い線で描かれた目と口しかないお面は、にっこりと笑ったのだ。


 夫は顔までは見ていなかったようだった。

 私は、見てはいけないものを見たような気がして、誰にも言えなかった。


 どれだけ車間距離をとっていても、追いかけてこられるのではないかという恐怖で、ドキドキした。

 結局、家の近くまで20kmくらい、ずっと後ろを走ってきていたし。



 他に何も通ってない真っ暗な夜道で、変な車に出会った時は気を付けて。

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お面 緋雪 @hiyuki0714

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