第六章 夜明けの星
城門前で、騎士団と革命軍の衝突が始まった。
民衆を相手にすることに戸惑う騎士もいる。
暴力的な勢いにひるむ騎士もいる。
ルドルフの檄が飛ぶ。
近衛騎士団も防衛に入っているようだ。
「いざとなったら、父上と大臣を頼みます。」
ミカとタナトスに頭を下げるのは
第一王子マティアス・サイサリア。
趣味人のこの人が、まともに防衛を指揮している。
ちょっと不思議な光景だ。
確かに、ミカとタナトスなら、できるかもしれない。
でも・・
革命軍の中心に、エアがいる。
予知で見た、光景だ。
・・
「ちょっと待って!どういうこと!」
金切り声が上がる。
「あの女、あのリーンハイムの騎士だったはずよ!」
エアを指さし、ヒステリックな声を上げる女性が一人。
「ばかやろう!何とぼけたことを!」
回りから罵声も上がるが・・
「でも、言われて見れば・・リーンハイムで見たような・・」
「俺は、あの革命に参加していたが、確かに・・」
そんな声があちこちで上がり始める。
「どうよ!何とか言ったらどうなの!」
女性は金切り声でエアに詰め寄る。
周りには少しずつ動揺が広がっている。
そんな人々はエアの言葉を待つ・・
しかし。
エアは何も言えない。
青ざめて、少し震えているようにも見える。
「そうしたのよ!説明してよ!」
女性は金切り声で追い打ちをかける。
「どうして何も言えないんだ・・?」
「まさか、本当に・・?」
動揺はどんどん広がっていく。
「待て、我々はリーンハイムの革命を成功させたものだが、
そんなことは・・」
何人か、指導者らしい人たちが出てきて、
エアを庇い始める。
「嘘よ!だって、この女、何も言い返せないじゃない!
あんたたち、本当にリーンハイムの革命に関わってたの!?」
「い、いや・・」
「何とか言ったらどうなのよ!?」
「説明できないのか!?」
広がる怒声や苦情、抗議の声。
すっかり、指導者らしい人たちも動揺している。
「な、何だ?様子がおかしいぞ・・?」
その動揺は、対峙している騎士団にも広がっている。
「何をしている!今だ!取り押さえろ!」
ルドルフが命令を出す。
はじかれるように、騎士団が動き始める。
が。
そこに女性ばかりの騎士団が横から現れて、
指導者らしき人たちとエアを守るように展開する。
これには、ルドルフを含め、騎士団は動揺する。
間違えるはずもない、第三騎士団だ。
どういうこと・・?まさか・・?
その時だった。
一人の柄の悪い雰囲気の屈強な男が出てきて、
エアを担いで逃走を図る。
「あ!あいつは盗賊の親玉だ!
俺の村が被害にあったんだ!」
「盗賊だって!?どういうことだ!?」
「なんだって!?」
「なぜ、盗賊が・・?」
第三騎士団も革命の指導者らしき人々を守りながら逃走する。
「に、逃げたぞ!?どういうことだ!?」
「あの女騎士どもは第二王子の部下だったはずよ!!
グルだったの!?」
「俺たちを見捨てるつもりか!?」
混乱に混乱を呼び・・
夜が明ける頃には、すっかり革命軍は戦意を喪失していた。
・・
「第二王子のクーデターに利用されたんだと説明したよ。
すっかり、全員大人しくなっているな。」
町や城の復旧が進む中。
仮設テントの中での話合い。
ルドルフは頭に包帯を巻いている。
包帯には血が滲み、痛々しい。
でも、無事で良かった・・
「しかし、ミラナ一味の仕業とは・・」
「貸しとは思わなくていいぜ。オヤジに一泡吹かせられたからよ。」
ミラナは本当に楽しそうだ。
その胸元で、金属の棒のようなチャームが静かに光っている。
そう、ミラナの魔道具には、
身近にいる数人を行動できなくする効果がある。
それで、エアを動けなくしたのだ。
だから、彼女は反論ができなかった。
ミラナのオヤジさんは、そのことに気付いたのだろう。
だから、エアを担いで逃走した。
あの魔導具は、元々、彼のアジトにあったものなのだから。
「いやいや、命が縮まりましたぜ。」
「生きた心地しなかったっすよ。」
ミラナの部下たちも、サクラ役を頑張ってくれた。
ミラナの持ちかけた取引とは。
部下と魔導具を作戦に利用することだった。
いや、それ、取引と言わない。
・・
結構、お人好しなのかもしれない。
「アンタの故国を悪者にしちまったな。」
ミラナは申し訳なさそうだけど。
「友達を守るためなら、父は喜んで泥を被るわ。」
「友達、ねぇ・・」
少しおいて。彼は続ける。
「なんでも、リーンハイムの革命は帝国が糸引いてたって、
噂があるみたいだぜ?」
!?
「まあ、それで、あのエアさんは・・」
「ありがと。」
あえて、その言葉を断ち切る。
「関係ないわ。それでも、彼女がやったことは変わらない。」
タナトスは、一族にも声を掛けて、復旧を手伝っている。
お父さんのタナトスさんも、
おじいさんのタナトスさんも来ているようだ。
ちなみに、おじさんもタナトスさんだった。
ミカも一族に声を掛けて、魚を配って回っている。
あ、こっち来た。
「ルドルフ様、これ、魚の肝から作った薬です。
傷に効くから、良かったら使ってください。」
「え・・俺に・・?」
ルドルフはポカーンとしている。
この、とうへんぼく!
他に言うことがあるでしょうに・・
「ありがとう。いただくよ。」
ちょっとだけ、感傷的な様子で、
ルドルフは薬を受け取った。
『うわぁー、きれいな人だなー』
始めてエアを見た時、ルドルフはそういった。
その時から、幼い時の彼にとっては、
エアは憧れの人になったようだった。
意地っ張りで、決して表にはださないけれど。
そういう意味でもきつかっただろう。
だから、ミカの気遣いが身にしみたのか。
ルドルフは、少し涙ぐんでいるようにも、見えた。
「後で、酒でも持っていくか。」
「人の姿で、にしなさいよ?」
タナトスの言葉につっこんで、二人で笑った。
第二王子ジルヴァール殿下とその配下の第三騎士団の行方しれずだ。
エアもそうだし、赤砂の盗賊団もなりを潜めている。
この状況では、調査に本腰を入れられないのもあるだろう。
皇帝陛下はショックで倒れられ、今は代行に第一王子が立っている。
これを機に、譲位の話も出ている、とか。
・・色々あるけど。
とりあえずは、終わった。
今はそれでいい。それでいいだろう。
私は、空を仰いだ。
邪神の牙 斎藤帰蝶 @KichoSaito
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