人種差別特区のクラスSSの生活崩壊

ちびまるフォイ

こういう人間こそが素晴らしい

人種差別特区の入国審査を待つ列は長かった。

自分の番になるまで何時間もかかった。


「はい、どうぞ。前に出てください」


「このゲートで何がわかるんです……?」


「あなたが素晴らしい人間か

 取るに足らないカスかがわかるんですよ」


特区のゲートキーパーはパソコンで何やら操作する。

ゲートがスキャンした自分のデータを見て腰を抜かした。


「そ、そんな! こんなの見たことがない!」


「え……そんなにひどかったんですか」


「逆ですよ! あなたはまさに特区に入るべき素晴らしき人種だ!!」


人種差別特区に入れるかどうか、という不安こそあったが

よもや特区に認められあまつさえ祭り上げられるとは思っても見なかった。


「〇〇様! 差別特区へようこそ!!」


お出迎えは豪華絢爛そのものだった。

サンバの衣装を着たダンサーが踊っている。


「す……すごい歓迎ですね、これ入国するたびにやってるんですか」


「そんなわけないでしょう。あなたが超優遇種だからですよ」


「そうなんです?」


「ご自覚がないなんてもったいない!

 ご自分で見てください、爪の白い部分が小さいでしょう!?」


「はあ」


「これは神爪といい、神の賜れし奇跡の恩寵なのです!!」


「「 はぁ~~!ステキ!! 」」


女性のダンサー数名が自分の爪を見て顔を赤らめる。


「それに低身長は賢さの象徴!

 さらに天パに、瞳の色は茶色。

 これはクラスSSランクの人の兆候ですよ!」


「知らなかった」


「ああ、どうかあなたのような素晴らしい人種を

 ぜひこの特区で増やしてよりよい世界にしていきましょう!」


どうやら自分の身体的特徴のあらゆる点は、

この特区においてクラスSSという超すごい人の特徴らしい。


人によっては直毛だからマイナス評価、などを行い

トータルの人間価値が高い・低いでクラス分けされる。


クラスSSの生活というのはまさに王様そのものだった。


「〇〇様、お食事のご用意ができました」


「うむ。くるしうないぞ」


朝はビキニ姿のメイドが働く城の中で目が覚める。

クラスSSの人間は優秀なので、あらゆる勝手が許される。


お金なんて使わない。

むしろお金を渡して特区にとどまってもらう必要がある。


それくらい稀有で尊ばれる存在なのだ。


「爪の白いところが小さくてよかったぜ!!」


朝からバカでかいステーキを頬張りながら、

このように自分を生みたもうた両親に感謝した。


あでも両親は高身長だったので特区じゃよくてランクAどまり。


すね毛が濃くて、眉毛がうすくなければ

ランクSまでに這い上がることはできないし、ましてランクSSは無理。


そう。自分はまさに選ばれた優秀な人種なんだ。


なにが優れているのかはわからない。

でもみんなが優秀だと言ってるからそうなんだろう。


そのときだった。


「〇〇様! テーブルの下へ隠れてください!!」


言うが早いか外からバカでかい爆発音が響く。


「な、なんだぁ!? 戦争!?」


「ちがいます! 特区の外にいるランク外たちのクーデターです!」


「なんで丸顔で小顔の奴らは、いつも闘争を求めるんだ!!」


小顔や丸顔は攻撃性のあかし。

だから特区では低評価要素のひとつとされている。


それが今、特区の防衛網を突破して戦いを始めている。

やっぱり特区の人種判定は間違ってなかったんだ。


「全員うごくな!! この特区は完全に包囲した!!」


自分の城にもクーデターがやってきて、自分も捕まってしまった。


身体的特徴で優遇を決める都合上、

優れた人間だと判定した数よりも、

アレが足りないコレが足りないと弾いた数のほうがずっと多い。


こうして数の暴力でもってクーデターされると太刀打ちできなかった。


「これだから劣等種は……!」


「なにが人種差別特区だ。差別なんて許されるわけないだろう!」


「これは区別だ! 俺は優秀なんだぞ! お前らよりずっと!」


「具体的になにが優秀なんだ」


「それは……髪の毛が、お前らより天パだ!! すごいだろ!」


「そんな差が人間的な価値の裏付けにならないだろうが」


クーデターを仕掛けたランク外のテロリストたちは、

ついに特区を占領しつくし、新しい国をここに作ることとした。



「今日からこの国は、無差別国とする!!」



ランク外の人間たちは大いに歓声をあげた。

と同時に、自分のこれまでの贅沢な生活が失われることを悟った。


それだけじゃない。自分も一体どうなるのか。


「さあ、もう満足だろう。無差別国も作れたし、クーデターは大成功。早くやってくれ」


「何を?」


「俺のような優秀人種の処刑だろう。

 昔から決まっている。市民の革命には貴族の死がつきものだろう」


「そんなことするわけないだろう!!」


なぜか無差別国の王に怒られた。

まさかの展開に自分も頭がこんがらがった。


「いいか、この国はすでに無差別の国になったんだ。

 誰がどう優れているとか、劣っているとか。

 そんな差別はもうしない!!!」


「え……!」


「お互いの違いを認め、お互いの差を理解する。

 それがこの無差別の国なんだよ」


自分の目が覚めたような気がした。


この特区に来るまで自分の爪の白いところが小さいこと。

そんなのは些細な差でしかなかった。


なのに特区の風潮に流されてそれが価値のあるものだと思い込み。

いつしか自分が特別な存在だと思いあがっていた。


そう人間はもともとが平等。

お互いの差を認め和えればそこに差別は生まれない。


「というわけで、この国は無差別の国となった。

 以降はこのルールに従ってもらう」


「あ、ああ……わかった。したがうよ。

 でも、俺自身まだ自分の急激な立場になじんでない。

 もし前の流れて差別をしてしまったら?」


「それは決まってる」


すると新たな国王はにこやかに答えた。




「差別をするような人間は、その時点で処刑する。


 お互いの違いを認められない人間はこの国にはいらない」





「いやそれも差別なんじゃ……」


すべて言うよりも先に銃弾が自分の脳天を貫いた。

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