おおがらすの怪

陽澄すずめ

おおがらすの怪

 まだ私が小学校低学年だったころの話です。

 私は弟と共に『ドラゴンクエストⅢ』をプレイしていました。

 もちろんファミコン版。毎回カセットの裏へフゥッと息を吹きかけてからゲーム機本体に挿していた時代です。

 ことドラクエに関しては、ちょっとしたことで簡単に冒険の書が消えてしまったりするので、我々もそれはそれは慎重にカセットを扱っていました。


 その日の私は、ストーリーの進行上の必要性から、最初の街に戻って『商人』の仲間を作っていました。

 プレイ済みの方は「あのイベントか」とピンとくることでしょう。とある場所で新たに街を拓くに当たり、商人を1人差し出さねばならなかったのです。

 当然、生まれたてホヤホヤの商人はレベル1。別にそのまま連れて行けば良かったのですが、なぜか私は彼のレベルを少し上げることにしました。

 彼は弱い。万が一死んでしまっては、わざわざ蘇生させるのも面倒です。

 だから、最初の街の周辺をうろついて弱い魔物を倒すことにしたのです。


 スライムなどとエンカウントすること数回。勇者パーティの前に、『おおがらす』の群れが現れました。

 おおがらすはスライムと比べれば多少強いのですが、所詮その辺りに出る魔物。シナリオ中盤まで進んだ勇者たちの敵ではありません。

 その時も、念のため商人に対しては『まもる』のコマンドを選択し、他の仲間には『こうげき』を選んでいたはずでした。


 しかし、その時でした。

 信じられないことが起きたのは。

 なんと、指示した戦闘は始まらず、画面下のメッセージパネルの中に突然こんな文章が表示されたのです。


*「いまから おぬしに かつを いれて しんぜよう ▼


 まるで街の人に話しかけた時のような文章が。


 ドラクエをプレイしたことがある人には分かると思いますが、戦闘中に会話文が出てくることはありません。

 それが、どうしたことでしょう。まるでおおがらすが喋っているかのような言葉が並んでいるではありませんか。


 発言は続きます。


*「それでは ゆくぞ!

  かーっ かっ かっ かっ! ……


 BGMが途切れ、静まり返る部屋。

 あろうことか、画面はそのままフリーズしてしまったのです。


 どれほど待てど、どのボタンを押せど、画面は一向に変わりません。

 おおがらす3匹と謎のメッセージが表示された状態で、ゲームは操作不能に陥ったのでした。

 何を思ったか2Pコントローラーのマイク機能を使って「動けー!」などと叫ぶ我が弟。しかし なにも おこらなかった!


 こうなっては、一度電源を切るしかありません。

 私はいつも通り、リセットボタンを押しながら電源を切りました。

 更には、いつも以上に丁寧にカセットの裏へ息を吹きかけてから本体へセットし直し、電源スイッチを押し上げました。


 昔のドラクエをプレイしたことのある人には分かると思いますが。

 画面バグや予想外のフリーズ、本体への衝撃等で何らかの異常の起きたドラクエがどうなるのか。


 はたして、覚悟した通りに。

 あの恐ろしい呪いの音楽と共に、例のメッセージが表示されたのでした。


——おきのどくですが

  ぼうけんのしょ1ばんは

  きえてしまいました。



 あのおおがらすの発したセリフがいったい何だったのか、30年以上経った今も分かりません。



—了—

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