【公式自主企画】怖そうで怖くない少し怖いカクヨム百物語

崔 梨遙(再)

1話完結:800字

 若い頃の話。


 仕事の都合で引っ越しをすることになった。不動産屋に物件を紹介してもらうことになった。最初は8畳とキッチンの1K。


「まだ前の人の荷物が少し残っていますが片付けますので」


 入ると、大きなマットにローションが置いてあった。


「風俗ですやん! これ、絶対にマンションヘルスですよね?」

「気になりますか?」

「気になります」

「じゃあ、次へ行きましょう」



「まだ、前の人の荷物が残ってるんですけど」


 入ると、大きなマットにローション。


「だから、風俗店が使っていた部屋だと印象が悪いですって」


 そこで、僕は閃いた。


「事故物件、見せてもらえませんか? 家賃が安いんでしょう?」



「この部屋、結構オススメですよ」

「いい部屋ですね、これで家賃が1万5千円ですか?」

「収納スペースも広いんですよ、見てください、このクローゼット」


 クローゼットの中を見ていると、後ろでカタンという音がした。振り返ると、首を吊っている女性がいた。長い髪、白い服。カタンという音は踏み台をはずす音だったらしい。


 僕は不動産屋さんに言った。


「ちょっと、後ろを見てくれませんか?」

「なんですか? え!」


 数秒間の沈黙、そして、


「「うわー!」」


 2人で部屋から飛び出した。


「この物件、どうします?」

「住むわけないでしょ!」

「じゃあ、次へ行きましょう」



「こちらも収納スペースが広いんです。クローゼットも広いでしょう?」


 クローゼットの中を見ていると、後ろに気配を感じた。振り返ると、黒い長い髪の女性が俯いて立っていた。


「お兄さん、ちょっと後ろを見てもらえませんか?」

「はい……何も無いじゃないですか、驚かせないでくださいよ」


 “アカン、今度は僕にしか見えてへん!”


「すみません、やっぱり事故物件はやめておきます。普通の物件を見せてください」



 だが、最近の若者の間では、事故物件に住むことが流行っているとのこと。意外に、何も起こらないことが多いらしい。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【公式自主企画】怖そうで怖くない少し怖いカクヨム百物語 崔 梨遙(再) @sairiyousai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る