DAY 131

 ――神崎博士の様子がおかしい!

 翌朝、赤塚は若いスタッフに叩き起こされた。

 神崎には事務棟の宿泊施設に移ってもらい、当分、そこで様子を見ることになった。赤塚も一緒に泊まり込み、待機していた。

「神崎博士の様子がおかしい⁉一体、どう変なのだ?」

「それが・・・」スタッフは困惑した表情を浮かべた。「ママはどこにいるの?」と言って、神崎が泣いていると言うのだ。

(そんな馬鹿な!)と赤塚は神崎の部屋に向かった。

 神崎はベッドの上に座って泣いていた。

「神崎博士!」と声をかけると、怯えた表情で、「おじさん、誰?」と答えた。

 年上の神崎から「おじさん」と呼ばれてしまった。

 名前を聞くと、「かんざきはるひこ」と答えた。年を聞くと、「七歳」と言う。「ここはどこ? ママはどこなの? パパはどこにいるの? おうちに帰りたい」と神崎は泣いた。

(どういうことだ?神崎博士の精神年齢が一気に三十年以上、逆行してしまった)

 赤塚は途方に暮れた。

 昨日は正常に見えたのに、一日経つと、いきなり精神年齢が大幅に逆行してしまったのだ。異変はそれだけに留まらなかった。

 翌日になると、神崎は「赤塚君。ワープホール計画が認可されたよ。いよいよ、我々の夢を実現に移す時がきた」と顔を輝かせながら言った。

 神崎の記憶は三年前に飛んでいた。

 翌日の神崎は高校生だった。そして、その次の日は大学生、こうして神崎の記憶は一日毎に目まぐるしく前後した。

 二度、ワープホールを潜ったマウスが死んだ。

 自殺だった。鉄カゴに入れてあったマウスは、ある日突然、狂ったように走り回り始めた。ゲージにぶつかって、気にせずに走り続けた。体中、傷だらけになり、餌も取らずに、過労死してしまった。

 神崎の表情は日に日に険しくなっている。

 神崎の精神は崩壊を始めていた。


                                    了

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2025年1月6日 08:00
2025年1月7日 08:00

世にも不思議なショートショート 西季幽司 @yuji_nishiki

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