第219話 怖気づいたのか? 実に情けない

 ドラメットが【竜化ドラゴンアウト】を解除して久遠マルオの正面に戻って来たところで、パトリックとヘンリエッタは正気に戻った。


「信じられるか? 俺達はあんなデカい敵まで相手どらなきゃいけないんだぜ?」


「祖国を守るためにここに来たつもりだったけど、アタシにはまだまだ覚悟が足りなかった」


 ビビっている2人を見て、久遠マルオはこのままではいけないと思って煽る。


「怖気づいたのか? 実に情けない」


 実際、アストラルヘッドドラゴンはそこまで強くない。


 守護悪魔を戦わせられたらワンパンで倒せる程度の強さでしかなく、久遠マルオが師匠キャラを使用する縛りプレイでもまだ余裕を残して倒せた。


 このぐらいの戦闘でビビっていては、悪魔が現れた時にどうするんだと言いたくなる程だ。


 悪魔はアンデッドモンスターよりも強いから、アマイモンに二度拉致されても生き残り、アリトンと遭遇しても生き残っている久遠からすれば、アストラルヘッドドラゴン程度で怖気づかれては教え甲斐がない。


 幸いにも、パトリックとヘンリエッタはここで落ち込むような性格をしておらず、逆に気合が入るタイプだった。


「そんなことはない! 今はまだ俺達が弱いだけで、これから強くなれば戦える!」


「見くびらないでほしい。アタシ達は地獄から来た敵を駆逐するために来たんだから」


「そうか。ならば、俺が倒してしまった奴の代わりを用意しよう」


 久遠マルオが師匠キャラアカウントしか見えないコマンドを入力することで、ブレイゴズとフリーメズがこの場に現れる。


 この2体はいずれも久遠が戦った個体よりもずっと弱く調整されており、具体的には2体が束になってもアストラルヘッドドラゴンには手も足も出ないレベルだ。


「この程度の奴等なら倒せないはずがない。今までに培った経験を活かして倒してみろ」


「「Sir, Yes Sir!」」


 久遠マルオの言葉の裏には、この程度の奴等を倒せないならお前達に見込みはないという意味が込められている。


 煽られたパトリックとヘンリエッタは気合を入れ、自分達の従魔にてきぱきと指示を出していく。


「ペイルモスマスク、【脱力粉塵ダウナーパウダー】」


「ウォーキングイルネス、【挑発菌咳タウントコーフ】」


 素の状態において一撃で仕留められない敵ならば、まずは弱体化するのがセオリーだ。


 それゆえ、ペイルモスマスクの【脱力粉塵ダウナーパウダー】でブレイゴズとフリーメズの能力値を5%下げ、ウォーキングイルネスの【挑発菌咳タウントコーフ】で状態異常の罠に嵌めるべく挑発する。


 ヘイトを稼いだおかげで、ブレイゴズとフリーメズはどちらも【破壊突撃デストロイブリッツ】でウォーキングイルネスに攻撃する。


「ガードクター、【暗黒回復ダークネスヒール】」


 ブレイゴズとフリーメズの攻撃を喰らった瞬間、ガードクターの【暗黒回復ダークネスヒール】がウォーキングイルネスを対象に発動したため、ウォーキングイルネスが力尽きることはなかった。


 ウォーキングイルネスには【菌病寄生イルネスパラサイト】というアビリティがあり、接触する攻撃によってダメージを負った時、ダメージを与えた者にランダムで状態異常にする効果がある。


 ブレイゴズは猛毒状態に陥り、フリーメズは麻痺状態に陥った。


 能力値が下がった状態で状態異常に陥っている敵がいるなら、その隙を突いて攻撃するのは当然のことだ。


 したがって、パトリックもヘンリエッタもまだ指示を出していない従魔に攻撃指示を出す。


「デビルパッカー、【暗黒槍ダークネスランス】でブレイゴズの腹部を攻撃」


「マッドフランケンはそのまま【棘体圧潰ニードルプレス】でフリーメズの頭上から攻撃。ペルピールは【暗黒握潰ダークネスグラスプ】でフリーメズの左脚を攻撃しろ」


 パトリックとヘンリエッタの指示により、従魔達がブレイゴズとフリーメズに攻撃していく。


「良いね、ダメージが順調に入ってる」


「基本に忠実な叩き方をすれば、アタシ達だってマルオ教官のように強くなれるわ」


 どちらも【自動再生オートリジェネ】は会得しているので、ブレイゴズとフリーメズがまともに動けない今の内に攻撃を畳みかけなければいけない。


 しかし、ブレイゴズとフリーメズだってただのサンドバッグであるはずもなく、ちゃんと反撃する。


 ブレイゴズが【闘牛突進ブルチャージ】を発動し、フリーメズが【闘馬突撃ロデオチャージ】を発動する。


 この2つのアビリティだが、オーラによって形成されるのが牛か馬の違いがあるだけで基本性能は変わらない。


 オーラの牛と馬が闘技場を駆け回り、パトリックとヘンリエッタの従魔達にどんどんぶつかってダメージを与えていく。


 オーラがぶつかったとしても、ウォーキングイルネスの【菌病寄生イルネスパラサイト】はその効果を発揮しないから、これ以上ブレイゴズとフリーメズも余計な状態異常を貰わない。


 もっとも、オーラ系のアビリティは使用する度にHPとMPの両方を消耗するし、【自動再生オートリジェネ】でMPが減っていくから長期戦には不向きなのだが。


「デビルパッカー、ブレイゴズに【悪戯プランク】」


 パトリックがデビルパッカーに博打要素のある指示を出した結果、ブレイゴズは石化状態になって動けなくなった。


 その隙を逃さずにパトリックは追加で指示を出す。


「ガードクターはブレイゴズから【元気吸収エナジードレイン】でHPを吸収しろ。ペイルモスマスク、フリーメズに【粉塵爆弾パウダーボム】」


 ガードクターが注射器の針を刺してブレイゴズからHPを吸い取れば、それがガードクターのHPを回復する。


 ペイルモスマスクの攻撃は火属性だったから、ブレイゴズを攻撃対象とはせずにフリーメズに攻撃した。


 続いてヘンリエッタが指示を出す。


「ウォーキングイルネス、ブレイゴズに【出血菌咳ブリードコーフ】よ。マッドフランケンもブレイゴズに【棘体圧潰ニードルプレス】」


 ウォーキングイルネスが咳をブレイゴズにかければ、ブレイゴズが出血状態になって猛毒状態と会わせてHPの再生速度を上回るダメージを負う。


 そこにマッドフランケンの攻撃が命中すれば、ブレイゴズのHPは残り1割まで減った。


「ペルピール、【剛力刺突メガトンスタブ】」


 ここまで弱らせたのなら、先にブレイゴズを仕留めるのは当然の判断だ。


 ブレイゴズが力尽きたことで、残すところはフリーメズだけである。


 フリーメズは相棒が力尽きたことで激昂し、威力の上がった【闘馬突撃ロデオチャージ】がパトリック達の従魔を襲う。


 (俺の時は別々に戦ったけど、同時に戦うとこんな現象が起きるのか)


 足掻くフリーメズの様子を眺める久遠マルオは、倒れるまで時間の問題だろうと思って静かに見守る。


 久遠マルオからのアドバイスがないということは、アドバイスせずとも勝てることを意味するから、パトリックもヘンリエッタも最後の追い込みをかける。


「デビルパッカー、【暗黒槍ダークネスランス】でブレイゴズの腹部を攻撃」


「マッドフランケンは【棘体圧潰ニードルプレス】、ペルピールは【暗黒握潰ダークネスグラスプ】でフリーメズの頭部を握り潰せ」


 パトリックとヘンリエッタの指示により、従魔達が攻撃を畳みかけたことでフリーメズも力尽きた。


 2人にはシステムメッセージが表示され、久遠マルオは2人が手に入れたカードをどのように使用するか予想していた。


 ブレイゴズとフリーメズは1枚ずつ2人共手に入れているから、パトリックとヘンリエッタはどちらのカードも使用できる。


「マルオ教官、やったぜ! 時間はかかっちまったが倒した!」


「マルオ教官、ご期待に添えた?」


「セオリー通りに戦えてたと思うぞ。理想はノーダメージでの勝利だが、実力が近い相手だとダメージを負うのは仕方のないことだ。ブレイゴズとフリーメズも上手く使うことだ」


「「Sir, Yes Sir!」」


 敬礼した後、2人は融合フュージョンの作業を始める。


 ブレイゴズとフリーメズは単体でも強いため、パトリックもヘンリエッタも様々なパターンを検討して従魔を強化した。


 その結果、2人の従魔は以下の通りになった。


 パトリックの従魔がブルビルとクレイジードクモス、フリーメズ。


 ヘンリエッタの従魔がブレフリールとマッドフランケン、ウォーキングイルネス。


 ブルビルはデビルパッカーとブレイゴズを素材とし、斧と棺桶デザインの盾を持った牛の悪魔の見た目に変わった融合フュージョンアンデッドだ。


 クレイジードクモスはガードクターとペイルモスマスクが素材であり、状態異常と回復に特化した融合フュージョンアンデッドである。


 ブレフリールは右腕に赤牛のガントレット、左腕に青馬のガントレットを装備した狼耳を生やしたダンピールだ。


 パトリックは満遍なく従魔を強くしたが、ヘンリエッタはブレフリールに特化したあたり、それぞれの考え方の違いがわかる。


 休憩せずにずっとUDSをプレイしていたことから、パトリック達がログアウトして外の様子を確かめたいと申し出たため、久遠マルオは4階まで移動してから師匠キャラアカウントの権限を使い、レンタルタワーから強制脱出した。

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Undead Dominion Story モノクロ @dolphin26

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