第218話 さては舐めプかな?

 久遠マルオに見守られる中、パトリックとヘンリエッタは融合フュージョンの作業を始める。


 2階で手に入れたアンデッドモンスターのカードをチェックし、空いている従魔枠を埋めるつもりなのだ。


 というのも先程の戦いでプレイヤーレベルが30に到達し、従魔枠が4つになったから少なくとも3体目の枠は埋めないと3階での戦力に困るという判断である。


 そこでパトリックが3体目の従魔枠を埋めるために選んだのは、フレッシュスライムとグラッジペイシェント、イルネスモスの組み合わせの融合フュージョンアンデッドだ。


 誕生したペイルモスマスクだが、蛾の翅を背中から生やしてバタフライマスクならぬモスマスクを装着した青白い人型アンデッドである。


 一方でヘンリエッタが3体目の従魔枠を埋めるために選んだのは、フレッシュスライムとグラッジペイシェント、イルネススペクターの組み合わせの融合フュージョンアンデッドだ。


 この組み合わせで誕生したのはウォーキングイルネスであり、見るからに重病に侵された徘徊ゾンビである。


 パトリックもヘンリエッタも、3体目の従魔枠は状態異常系アビリティを重視した融合フュージョンアンデッドで埋めた。


 それから、主戦力であるマーモンプとマルファムにコフィンディーラーを融合フュージョンする。


 マーモンプとコフィンディーラーを素材として誕生した融合フュージョンアンデッドは、棺桶を背負ったクソガキ感のある小悪魔だった。


 その名前はデビルパッカーと表示されており、棺桶からマスターが見たことのあってデビルパッカーよりも弱いアンデッドモンスターを制限時間ありで召喚できる。


 マルファムとコフィンディーラーを素材として誕生した融合フュージョンアンデッドは、病的に顔色が悪くて背中から小さな蝙蝠の翼を生やした狼男の外見をしていた。


 表示された融合フュージョンアンデッドの名前はペルピールであり、ウルキュリアと似た方向に進化しそうな可能性を感じさせる。


「良いチョイスだ。今日はまだ余裕がありそうだな。どうする? このまま3階に挑戦するか撤退するか選べ」


「「挑戦する」」


「よろしい。では進むぞ」


 パトリックとヘンリエッタはまだまだやれそうだったから、久遠マルオは3階に進むと告げた2人の意思を尊重した。


 ところが、ここで師匠キャラの中にいる久遠のトラブル巻き込まれ体質が悪さをする。


 そう理解させられたのは、3階の内装が以前オリエンスに拉致された時に鬼童丸が戦った闘技場とそっくりだったからだ。


 闘技場の中心には、頭部だけが紫色の霊体で体は鈍色のドラゴンがいて、奥にある鉄格子で守られた通路の前に立ち塞がる。


 (アストラルヘッドドラゴンか。今の2人の従魔じゃちとキツいな)


 2人の従魔はレベル上限が75の従魔が1体ずつと、レベル上限50の従魔が2体ずつだ。


 レベル上限100で現状がLv40のアストラルヘッドドラゴンを倒すのは厳しい。


 ちなみに、ここでアストラルヘッドドラゴンが出たのは獄先派の仕業ではない。


 あくまでもランダム生成される階層の一種であり、1%未満の確率を久遠マルオが引き当ててしまっただけだ。


「ここは俺がやる。パトリックとヘンリエッタは見学。これは教官命令だ」


「「Sir, Yes Sir!」」


 ドラゴンの従魔が欲しいと言っていたパトリック達だったが、実際に敵として現れたアストラルヘッドドラゴンを見て敵わないと理解してしまった。


 それゆえ、久遠マルオが自分だけで戦うと宣言したことに敬礼で応じた。


 (さて、ドラメットだけでやれるかね?)


召喚サモン:ドラメット」


 ドラメットの能力値は高めだから、Lv24でもLv40のアストラルヘッドドラゴンと戦えるだけの自力はあると見ている。


 アストラルヘッドドラゴンが【属性吐息エレメンタルブレス】を放てば、久遠マルオは慌てずにドラメットに指示を出す。


「ドラメット、ブレスを回避して敵のボディに【極限打撃マキシマムストライク】を放て」


 ドラメットは久遠マルオの指示通りに【属性吐息エレメンタルブレス】を躱し、アストラルヘッドドラゴンの腹部に全力でドレイクハンマーを命中させる。


 アストラルヘッドドラゴンのHPが3割程削れ、霊体の頭部が赤色に染まる。


 元々は闇属性のブレスだったのだが、今は【属性切替エレメンタルチェンジ】で火属性になったようで、再び放たれた【属性吐息エレメンタルブレス】は火属性に変わっていた。


 (風属性の攻撃を使われる前に倒さないとな。ドラクールがいないとやっぱしんどいわ)


 UDSでも現世でも共通して属性には相性がある。


 火は水に弱く、水は土に弱く、土は風に弱く、風は火に弱い。


 オリエンスがアリトンから逃げて来たのだって、オリエンスの司る火がアリトンの司る水に弱かったからだ。


 また、パイモンがアマイモンにあれだけ一方的だったのは、アマイモンが土を司っているのに対してパイモンが風を司っているからである。


 属性間の相性だけで考えれば、パイモンもアリトンも自身の弱点属性を司る悪魔を自分の派閥に撮り込めているのだから、ちゃんと自身の弱点対策ができていると言えよう。


 雷や氷、木の属性は四元素の属性と違って優劣が複雑であり、闇の属性には他の7つの属性に対して優劣はないので、久遠マルオがこの場でドラクールを召喚したいと思ったのもそれが理由だ。


 弱点があるとすれば光属性なのだろうが、悪魔やアンデッドモンスターで光属性を使う者はいないから、実際にどうなのかはまだわからない。


 少し脱線してしまったが、ドラメットは土属性を得意とするから風属性の攻撃に弱い。


 だからこそ、アストラルヘッドドラゴンが風属性の攻撃を仕掛けてくる前に潰したいのである。


「ドラメット、ブレスを躱しつつ接近して奴の頭に【岩腕握潰ロックグラスプ】」


 久遠マルオの指示に従い、ドラメットは懐に潜り込んでからドレイクハンマーを持っていない方の腕を伸ばし、そこに岩の腕を纏わせてアストラルヘッドドラゴンの霊体の頭部を握る。


 霊体に物理攻撃は効かないが、【岩腕握潰ロックグラスプ】は分類上では魔法系アビリティになるから霊体にも命中する。


 見た目的には物理攻撃だから透過できると油断していたため、アストラルヘッドドラゴンはまんまと頭部を強く握られてしまった。


 継続的にダメージを与えられ、アストラルヘッドドラゴンのHPが半分を切ったところでその頭部が緑色になる。


 (チッ、風属性に変わったか)


 【属性切替エレメンタルチェンジ】でアストラルヘッドドラゴンがドラメットの弱点属性に切り替わり、【属性吐息エレメンタルブレス】を使えば岩の腕は破壊されてドラメットのHPが一気に4割削られた。


「作戦変更だ。ドラメット、アストラルヘッドドラゴンの背中に乗って【極限打撃マキシマムストライク】だ」


 頭部への攻撃は反撃されやすいが、敵自身の体にくっ付いていれば敵も攻撃しにくい。


 そのように判断して指示を出した訳だが、アストラルヘッドドラゴンはブレスで自爆してもドラメットにダメージを与えられない可能性があるとわかったからか、【極限打撃マキシマムストライク】を受けてもひるまずに【闘気衝撃オーラインパクト】を発動した。


 HPとMPを消費する代わりに属性の優劣、物理攻撃を透過する霊体にも攻撃が当たる範囲攻撃だから、アストラルヘッドドラゴンのHPも削られたが、ドラメットのHPも削られた。


 お互いのHPが残り3割になったが、アストラルヘッドドラゴンは【属性切替エレメンタルチェンジ】で土属性に変わった。


 (さては舐めプかな?)


 ドラメットには【自動再生オートリジェネ】があるため、このタイミングでの【属性切替エレメンタルチェンジ】はAIが舐めプしたのではないかと疑いたくなる。


「ドラメット、アストラルヘッドドラゴンの真上で【竜化ドラゴンアウト】だ」


 立ち上がったドラメットがアストラルヘッドドラゴンの真上まで素早く移動し、そこで【竜化ドラゴンアウト】を発動すればアビリティではないものの、ドラゴン形態のドラメットがアストラルヘッドドラゴンの体にのしかかることになる。


 急に重い物体が背中に乗って来ればバランスを崩してしまい、アストラルヘッドドラゴンが見せたその隙を久遠マルオは見逃さない。


「ドラメット、【大地吐息ガイアブレス】でとどめだ」


 至近距離から【大地吐息ガイアブレス】を放てば、のしかかりで削られたダメージに追い打ちがかかり、アストラルヘッドドラゴンのHPが0になった。


『ドラメットがLv24からLv40に成長しました』


『ドラメットの【岩腕握潰ロックグラスプ】が【鋼腕握潰メタルグラスプ】に上書きされました』


『アストラルヘッドドラゴンを1枚手に入れました』


 ラストは怪獣大決戦のようになっていたから、久遠マルオが振り返った時にはパトリックとヘンリエッタの顎が外れそうなぐらいポカンとしていた。

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