第2話 魔女との出会いとシャッター音

「あ、やっときたね」


 そう言って、眺めていた水面から顔をあげて、こちらに手を振る少女。私よりは多少年上のようだけど。

 その頭には目深く被った魔女のとんがり帽子……はなく、ただ、その顔を隠すように白い紙のようなものがおでこに貼り付けられていた。

 それ以外の服装は、どこかの制服のようなものだった。私も制服を着ていたけれど、違う学校のもののようだった。


「あの……ここはどこなの?」

「ここ? 東京の水災被害第二十四区、都市としての正式名称はもうなくなっちゃった」

「すいさいひがいだいにじゅうよんく……」


 なんだか、不穏な響きのする言葉をオウムみたいに繰り返した。だいぶ間抜けな顔をしていたと思う。


「この世界のことはどこまでわかってる?」

「わかんない」

「そっか、ここが沈み始めていることはわかんないのね?」

「うん」

「あぁ……確かにそうだったかも」

「え?」

「なんでもないよ」


 なにか呟いた気がして聞き返すも、はぐらかされてしまった。


「沈むの……? ここが?」


 どうしてなのかはわからないけれど、私が倒れていた、最初は危険だと思ったあの場所も沈んでしまうのだろうか、それは嫌だな。

 そんな感情が胸に浮かんで、不思議に思った。


「そうだよ、まあ、そんなのはどうでもよくて!」

「どうでもよくて!?」


 よくないだろうと、思った通りに声がでて、初対面……かどうかもわからないけど、失礼じゃなかっただろうかと少し慌てた。


「あはは、その調子で喋ってもらってかまわないよ」

「わかった……けど」

「そのスマホ、カメラは使えるよね」

「え、ちょっと待って」


 今まで、カメラなんて開く場面などなく、アイコンがあったかどうかも確認できていない。慌てて起動させて、カメラのアイコンを探す。


「ある。えっと……うん、使えそう」

「そう、じゃあチュートリアルするよ」

「ちゅ、ちゅーとりある?」


 記憶喪失前はゲームを多少なりともしていたんだろうか。ちゃんと覚えのある単語と、この場面で唐突に出てくる単語ではないことだけはわかった。


「そうそう、はい、この橋、この画角で撮ってみて」

「え、こ、こう?」

「そうそう」


 ぱしゃっ。


 あのスマホの独特なシャッター音とともに、写真がちゃんと撮れたことを知る。


「はい、今撮ったやつ見てみて」

「はい」


 なんだかちょっとだけ、面白くなってきて大人しく言うことを聞く。

 そこには、


 恐らく誰かと手をつないでいるのであろうポーズをとった、今より少し幼い私の姿があった。目の前の光景にそんなものはないのに。


 それを認識した瞬間、ひどく頭が痛くなって倒れこんでしまう。


「えっ、ちょっと、大丈夫!?」

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シャッター音と魔女と君 白昼夢茶々猫 @hiruneko22

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