クラスメートに千年殺ししたらその子のお尻が底なしだった

脳幹 まこと

人間の神秘


 あれは私が小学四年生の頃の話です。


 当時の私は、誰にでもちょっかいをかける子でした。


 マイブームは千年殺し――すなわちカンチョーです。有名な忍者マンガで使われているのを見て「カッコいい」と思ってしまったのです。

 祈るように手を組んだ後、人差し指だけを伸ばし、その先端を相手のお尻に勢いよくす――そのカタルシスは、やった人なら誰でもトぶと思います。

 その快感と感慨に酔って、私はクラスの片隅で、気を抜いてそうな子はいないかをじっと観察していました。

 そして、ある一人の男子を標的にしました。


 標的は半袖のシャツにハーフパンツという標準的な服装で、友人と会話に花を咲かせていました。

 事務的な会話以外はしたことがありません。特段クラスで目立っていたわけでもありません。苗字すら思い出せないような子でした。

 私は少しずつ近付きました。それなりに名が知れ渡っているので、自然な素振りである必要があります。特に口が軽い上に声が大きいため「アラーム」のあだ名が付いている女子には、決して気取られてはいけません。

 彼の真後ろまで移動すると、進路上の子がはけるのを待ってから、分かりやすく消しゴムを落としました。これで屈みながら前進する大義名分が生まれます。拾うのに手こずるフリをしながら、着実に標点との距離を縮めていきました。


 この段階まで来たらもう後戻りは出来ませんでした。誰かに発見される前に、速やかに任務を終わらせる必要がありました。

 両手を組みます。ぽってりとした臀部でんぶや太股を見るに、スポーツクラブには通ってはいないようでした。

 一発の弾丸――人差し指をセットしました。標的はまだ他愛のないおしゃべりをしていました。


Good Nightおやすみ


 カウントダウンもなしに、私は人差し指を彼のお尻に挿しました。

 しかし、約束された絶頂が訪れることはありませんでした。


(なん、だと……?)


 私は戦慄に打ち震えました。

 ことが済んだら、即時撤退をする必要があるのですが、それどころではありません。


 組んだ人差し指が――すっぽりと入ってしまったのです。

 そんなことは今までありませんでした。第一関節から第二関節の間で止まっていたのです。

 見間違えかとも思ったのですが、何度見ても根元まで彼のハーフパンツに呑まれています。それどころか、まだ「頑張ればいけそう」なのです。まさに異次元への扉でした。当時の私は、人間の神秘に完全に圧倒されていました。

 何より不安だったのは――ここまで深々と挿しているにも関わらず、微塵も反応がないことでした。上からは当時人気だったゲームの話が聞こえてくるのです。


 軽いパニック状態でした。

 こんなに長い時間、指をお尻に挿したことはありませんでした。

 私は千年殺しそのものに快感を感じるのであって、お尻の温かさを知りたいわけではありませんでした。

 なけなしの理性を振り絞り、私は自分の思い描く最短最速で組み手を抜きました。

 即座に消しゴムを分かりやすく周りに見せびらかし、他意はなかったことを示しました。


(くっ、引き分けと言ったところか)


 私は苦々しく撤退をしました。



 放課後。帰ろうとした私に彼が近づいてきて、こう言いました。


「アレ、もう二度とやらないでね。誰にも。迷惑だから」


 たくさん考えていた捨て台詞も出せず、私は「あ、はい」とだけ答えました。


 その後、私が千年殺しを使うことはありませんでした。

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