豊かな暮らし

あとがき

誰しもが子供の頃は悪い奴が襲ってきて撃退する妄想をしていました。ですが電車でゲロを吐いている人を見ても誰も助けようとはしません。

でも助けないことが悪いことだとは思いません。こっちも仕事で疲れていますから。電車に乗る時に吐くほど飲む方が悪いです。むしろ吐く奴が悪です。それに下手に助けたら変な因縁をつけられるなんて話も聞きます。

でも確か子供の頃夢見たヒーローって疲れていても戦ってくれました。むしろそんなヒーローが好きだった。それになぜ自暴自棄に酒を飲んだ結果だと思ったのでしょうか？終電で吐いたから？もしかしたら元々ご病気されていて今日は友人の祝杯で一杯飲んだだけかもしれないのに。人を助けて変な因縁をつけられた話は全体の何％なのでしょうか。きっと無数の善行の中のたったひとつなのではないでしょうか。

社会の中で生きている。お金を頂けてるということは何かの役に立っている。だけどそんな立派な人ほど明日を考えて誰も助けられません。明日も社会で生きなければなりませんから。

こういう経験の積み重ねで自分が本質的にヒーローでないと知ります。同時に周囲の人間の中にある消極的な悪意を認識してしまいます。つまり自分だけでなく周囲も自分を助けてくれないことを理解します。そうすると社会の一員は孤独になります。

この孤独を何で埋めましょうか。

ヒーローではなくなった代償として金銭を得たのだから贅沢をしましょう。広い部屋を賃りて好きな家具を置きましょう。一度しか使わない家電を買いましょう。大好きな馬を殺してソファーにしたものなんてぴったりです。

なぜ多くの人が目的もなく自分を削るのでしょうか。

あなたは生きているだけで素晴らしいのに。

両親や親族がたくさんの愛情を注いだからではありません。あなたが幼い頃から今に至るまで不断の努力を重ねたからでもありません。

あなたはただ素晴らしいのに。

情報と飽満の時代です。贅沢品が絶対に必要だと言うように売られています。

服、靴、時計、ブランド品、スポーツカー、家電、ペットまで。実際にどれも素晴らしいです。お金を出せば出すほど良い物が手に入ります。これは芸術大学で様々な物作りについて学んだので間違いありません。伝統、歴史、技術、精度、精神。関わるすべての人をリスペクトできます。保証します。高いものほど素晴らしい。

しかし寂しい心を埋めるものでは決してありません。満たされた心にだけ響くものです。芸術にアートに人のこころの欠落を埋めることなんて出来ないのですから。

ですが寂しいこころが大挙する現代において、いくら素晴らしいものであっても本来必要ない人に売るしかないんです。本当は相応しくない違う人に向けて宣伝するしかないんです。

気をつけてください。あなたには殆どのものが必要ないかもしれない。

あなたに必要なのはゲロを吐いた人をバカみたいに犠牲を払って助けることかもしれない。そしてあなたの周囲の人はあなたが何を買って、何を着て、何に乗ったかより、あなたがどう人を助けたかを聞きたがっているかもしれない。

気を付けてください。一度何かの犠牲を払って稼ぐと続けなければならなくなる。

お金はあなたを魅了して離しません。無くなる不安、潤沢な時の幸福感。お金は徹底した飴と鞭であなたを魅了し続けます。しかし人はあなたから簡単に離れていってしまいます。お金はあればあるほどいいです。ですが1人で使うには限度があります。

どうせお金から離れられず稼ぎ続けるのだから、少しの稼ぎを犠牲にしながら人を幸せにするくらいがちょうどいいかもしれません。

これは本当に気を付けて。

ぜひ職場の人を悪く言ったり、選挙にも行かずに世の中の不条理を嘆いたり、関係ない芸能人のいざこざについて意見を持っていい気になったり、よく知らない高級品を語ったりしてください。私は本当に楽しそうに聞きます。中身のない話が好きなので。

でもそれよりも子供の頃の妄想を現実にして何かを得て、おまけに何かを失った話を聞かせてください。それなら私はおもしろがるだけではなく、あなたのために行動するでしょう。殆どの人がきっとそうします。

大人になるとヒロイズムは死にます。ですが死んだかに思えたヒーローは必ず復活します。そしてその姿はまた新しいヒーローを生む。あなたはその中心になり得ることをチャンスが来た時に思い出してください。

言葉にするとそんな風な考えからこの話を書いたのだと思います。たぶん。