六
外には出たくないような此の頃だが、家にいても塞いでしまう。逃げ場がないように思われる。社会とは、生きていれば一体そうである。
死ぬことは逃げることではない、死ぬとは終わることである。逃げるとはその先があっての逃げである。死んでしまえば現実にその先はなくなる。
やはり社会には逃げ場がない。たとえ辛さからいくら逃げようとも、逃げ切ったように思えても、最終人は死ぬのである。人生という単位に区切りをつければ、その場その場で何かから逃げ切るということは成立するかもしれないが。
だから私は、塞ぎ込んでしまい暗いことを考えてしまう家の中から一時的に逃げてみようと思う。
外を眺めると生憎の雨であった。雨粒が窓に当たり、コツコツと音を大きく立てている。強い。でもそれが今の私にとっては生憎ではないかもしれない。
傘を差して外へ出た。思った通りだ。休日の日の雨天。人通りは少ない。
外でご飯を食べることは億劫だが、人がいないのなら、また、あのラーメン屋さんに行きたい。
そう思うと、もうその腹になってしまった。強い雨で、傘を差していても、歩けば足元はびっしょりと濡れた。
ラーメン屋の前に着くと、濡れたのれんを潜った。
前は塩ラーメンを食べたので、他のものを食べようかと迷ったのだが、あの味をもう一度、ともよぎる。
結局塩ラーメンを選び、店員が運んできた。
一口スープを飲んだ。やはり美味しい。夢中でラーメンを食べた。水をぐいっと飲み干し席を立った。
またのお越しをお待ちしております、という店員の言葉が少し嬉しく感じた。
外に出ると雨は止んでいた。グレーの雲から光が差し込む晴れ間。雨上がりの独特の匂いがしている。
家に帰るために歩いていると、行きよりも、人通りが増えたように思う。雨が上がったので、遊びに出ようと待ち合わせをしているような人が多い。
よそ見をしながら歩いていると、段差に足を引っ掛けて躓いてしまった。人の多いところだったので恥ずかしかった。だが、一人の男性が声をかけてくれ、手を差し伸べてくれた。
私はありがとうございますと感謝し、その場から歩き始めた。
助けてくれた男性の方へ振り返ると、その男性も待ち合わせの友人と会えたようだった。
その男性は友人に、さっき俺の目の前で片腕ないやつが転けたから助けてやった、と話をしていた。
私は歩いた。家に早く帰ろうと。
五分ほど歩くと、またポツポツと雨が降り始めた。ペトリコールの匂いがした。
晴れ間のペトリコール 蒼井 狐 @uyu_1110
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