第4話 ブラコン妹と、その親友の佐藤さんの話 その①


「おお、陽菜ひな、おかえり」


「たっだいま~」


 その銀髪を夕日の色に染めながら飛びついてきたのは、妹の佐藤 陽菜さとう ひな


 ちなみに、我が妹も『佐藤の呪い』にかかっている。


 一年下とはいえ同じ学校に通っているし、俺の妹ということは同じ『佐藤』だからだ。


 今でこそ天使のような笑顔を見せてくれている陽菜だが、少し前までは俺のことを徹底的に無視し、ゴミでも見るような目で見ていたのだ。誰も信じてくれないだろうけど。


 それこそ、一人暮らしの俺をこうやって訪ねてくることなんてありえなかった。個人的に、いまだ距離感がわからない。


「ねぇねぇ、おにい、お願いがあるんだけど!」


 そんな俺の気持ちなどつゆ知らず。呪いによって好感度メーターMAXの陽菜はぐいぐい来る。


「な、なにかね。妹よ」


「今日、佐藤さん連れてきたんだけど!」


 妹は瞳を輝かせながら言い、自身の背後を指し示す。そこに、もう一人少女が立っていた。


「げ」


 思わず声が出た。俺はその少女を知っている。


 腰ほどまである美しい黒髪を持ち、長めの前髪で顔半分を隠した少女――妹の同級生のクラスメート、佐藤 凛さとう りんさんだ。


「か、かけるセンパイ、こんにちは」


「お、おおう。いらっしゃい」


 こちらの佐藤さん、実はめちゃくちゃ人見知りで、筋金入りの陰キャだ。


 交友関係が広い妹ならともかく、男の俺とは友人にすらならないタイプだ。


 基本目も合わせてくれないのだが、呪いのせいで俺に対する好感度メーターは最大値になっているからややこしい。常に赤面しているし、気を抜いたら服の裾を掴まれてたりする。


 ……それにしても、妹がこの時間に友人を連れてくるなんて珍しい。


 佐藤さんも私服だし、背中の荷物はなんだろう。もう嫌な予感しかしない。


「おにい、明日学校休みだし、今日、りんちゃんと一緒に泊めてほしいんだけど!」


「駄目だ帰れ」


「やったー! ありがとう!」


 陽菜は佐藤さんの手を取ると、ニコニコ顔で家の中へと招き入れてしまう。


 今、俺は確実に断ったはずだが? 妹の中ではOKしたことになっていた。


「センパイ、きょ、今日はよろしくお願いします」


 佐藤さんはペコリと頭を下げる。彼女は妹より背が低いし、その見た目も合って日本人形のようだった。


 というか、赤の他人の……それも男の家に泊まるとか、佐藤さんは何も感じないのか?


 ……呪いのせいで好感度メーターぶっ壊れてるし、感じないんだろうなぁ。


 俺は色々な意味で諦めて、二人に続いて家に戻る。


 しかし、俺が住んでいるのは学生向けのワンルームだぞ。二人で寝るのも手狭なのに、三人となるといよいよ厳しい。どうしたものか。


 ◇


 やがて日が暮れ、夕食は適当にコンビニ弁当で済ませた。


「二人とも、好きに過ごしていいからな」


 そう伝えたあと、俺はできるだけ二人と関わらぬよう、ゲームに没頭することにした。


「ねぇねぇ、りんちゃん、この表現使えるかも」


「あ、そうだね。いいかも」


 そんな中、妹と佐藤さんは一緒にラノベを読んでいた。


 ……どちらも、俺に背中を預けながら。


「おい妹よ。なぜ俺にくっつく?」


「だって、好きに過ごしていいって言ったよね?」


「言ったが、すごく気になるんだが」


「いいじゃん。このほうが落ち着くの」


 陽菜はそう言って、ラノベに戻る。なんか背中があったかくて柔らかい。


 妹と佐藤さんが同じ文芸部に入っていることは最近知ったのだが、二人は呪いにかかって以降、小説投稿サイトに俺を主人公にした小説を投稿しているそうだ。さすがに怖くて、読む勇気はないが。


 ……そうこうしているうちに、風呂の時間が迫ってきた。

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