第2話 同級生で幼馴染の佐藤さんの話 ②
やがて迎えた昼休み。
俺は行きのコンビニで買っていた袋を手に素早く立ち上がり――。
「
「お、おう……」
……逃亡失敗。というか、隣の席なんだから逃げられるはずがなかった。
「今日、他の佐藤さんは?」
「さぁ……来ないところからして、用事でもあるんじゃないか」
最大限の警戒をしながら、俺は教室の入口に視線を送る。
俺に最高レベルの好意を抱いている佐藤さんは、目の前の
昼休みになると、彼女たちも毎日のように教室にやってくるのだが……さすがにクラス中の注目を浴びながら昼飯を食べるのは恥ずかしすぎて俺のMPが保たないので、たいてい校舎の裏か、屋上で食べるようにしている。
……それがまた、あらぬ噂を生むことになるのだが、それはまた別の話。
「そっかー。美月さんから借りた本、返したかったんだけどなー。残念」
手作りだという弁当が入った包みを小刻みに揺らしながら、七海が言う。
よくわからないが、佐藤さん同士は仲が良いらしい。
「まー、翔を独り占めできると思えば、それもいっか」
「ぶふっ」
続いた言葉に、俺は思わず吹き出す。
そういう発言は、クラスメートたちに聞こえないところで言ってほしい。
◇
昼食後の古文の授業は、眠くなる授業ナンバーワンと言っても過言じゃない。
腹は満たされ、血糖値は爆上がり。そこに教師の放つ眠りの呪文とくれば、抗えるはずがなかった。
「ねぇ翔、教科書忘れちゃった。見せて」
そんな俺の眠気を吹き飛ばすようなセリフが、隣の席の幼馴染から飛んできた。
「おまっ……置き勉してるって、この前言ってなかったか?」
「そうだっけー? でも、忘れちゃったものは仕方ないよねー。というわけで、見せて?」
七海はそう言うと、俺の返事も待たずに机をくっつけてくる。普段使っているシャンプーなのか、いい匂いがした。
この状況を打開するため、呪いの力を利用して今から別のクラスの佐藤に古文の教科書を借りることも考えたが、それを実行する前に教師がやってきてしまった。
俺が絶望する中、日直の七海の号令で授業が始まった。
……というわけで、普段なら速攻で眠りにつくはずの授業で、俺はまったく眠れずにいた。
じー。チラッ。
最近ずっと感じている七海の視線が、今日はいつもより近い。いや、近すぎる。
チラッ。チラチラッ。
「(ええい、やめんか。集中できん)」
「(いつものように寝ててもいいよー? ノートは後で見せてあげるから)」
教師に聞こえないような声で注意すると、そんな言葉が返ってきた。
さすがにそういうわけにはいかない。それにこの状況で眠ろうものなら、こいつに何をされるかわかったもんじゃない。
「(せっかく教科書を見せてやってるんだから、俺の顔じゃなく教科書を見なさい)」
そう伝えて、俺は窓の外に視線を向け、頬杖をつく。
そんな俺の後頭部には、授業が終わるまでずっと強烈な視線が刺さり続けていた。
……好感度メーターの振り切れた幼馴染との一日は、こうして過ぎ去っていくのだった。
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