第1話 同級生で幼馴染の佐藤さんの話 ①


 その日、俺は重たい足を引きずりながら教室へと向かっていた。


 今日は隣の席の佐藤さんと日直の日だ。


 ……つまり、朝から放課後まで幼馴染と一緒というわけだ。


 幼馴染との日直イベント……世間一般的には嬉しいイベントだと思うが、俺にとっては迷惑極まりない。


「はああぁぁぁ」


 盛大にため息をついたあと、早朝の教室へと足を踏み入れる。


「おっはよっ、かけるっ」


「ぐはっ」


 扉を開けた直後、死角に隠れていたらしい佐藤 七海さとう ななみが背中を叩いてきた。


 本人は軽く叩いたつもりだろうが、彼女は力が強い。アザになってないと良いけど。


「お、おはよう、佐藤さん」


「もー、七海って呼んでって言ってるのにー」


 教室に差し込む朝日に負けないくらいの眩しい笑顔を俺に向けながら、彼女は言う。


 肩ほどまでの黒髪ショートヘアに、大きな瞳。整った顔立ち。人当たりの良い明るい性格……確かに可愛らしいとは思うが。


 これが、少し前まで俺のことを完全に無視し、時折ゴミを見るような目で見ていた幼馴染とは……とても思えなかった。


 きっと、呪いによって好感度メーターがぶっ壊れてるんだろうなぁ。強制的に常にMAX! みたいなさ。


「それじゃ、黒板に日直者の名前書いとくね。えへへ、相合い傘にしちゃう?」


 ……ぞわぞわと鳥肌が立った。


 そりゃ、昔はそれなりに仲良くしてたけどさ。ここ最近の塩対応からの変貌っぷり、まだ慣れないわ。呪いの力、恐るべし。


「お、俺、皆の机拭くよ」


 完全に心を許した笑みを浮かべる幼馴染を直視できず、俺は布巾を手に廊下へと逃げ出したのだった。


 ◇


 朝はなんとか逃げ切ることができたが、日直という特殊な関係はその日一日続く。


 唯一安堵できるのが授業中だが、それでも気は抜けない。


 何しろ、七海の席は俺の隣だ。常に見られているような気がする。


 恐る恐る視線を向けると、超絶笑顔を返してくるし、俺の自意識過剰じゃないと思う。


「えー、じゃあ、次の問題を……佐藤」


「はい」


 その時、教師に指名され、俺と七海の声がハモる。


「佐藤同士、仲がいいよなー。俺も混ぜてくれよー」


 直後に後ろの席の佐藤(男)がそんな野次を飛ばしてきて、クラスに笑いが起こる。


 めっちゃ馴れ馴れしく話しかけてくるが、この佐藤(男)とも、呪われる前までは話したことすらなかった。


 野球部に所属しているらしく、帰宅部の俺とは縁遠い人間だったし。


「……静かに。えー、女子のほう」


「はい」


 そうこうしていると、改めて七海が指名され、問題を解いていく。しっかりと正解していた。


 この容姿で、運動も勉強もできるっていうんだから、そりゃ人気も出るよなぁ。


 ぼんやりとそんなことを考えていると、着席した七海と目があった。


 ……小さくピースしながらドヤ顔すな。かわいいな、もう。


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