第3話 実は◯◯◯な先輩の佐藤さんの話


 三年生の佐藤 美月さとう みつきさん。


 地元の有名企業の社長令嬢で、文武両道で品行方正。まさに絵に描いたようなお嬢様だ。


 そんな彼女も、例の呪いが発動した日から、ことあるごとに俺に絡んでくるようになった。


かけるさん、今日、またご自宅にお邪魔してよろしいでしょうか?」


 校門前で送迎用の高級車に乗り込みながら、美月さんが期待に満ちた視線を俺に向けてくる。


「いいっすよ。妹も部活で遅くなりますし」


「ありがとうございます。それでは、お茶菓子を持ってお伺いしますね」


 俺の答えを聞いて、彼女は上品な笑みを浮かべる。


 ちょうど下校時間ということもあり、校門周辺は学生だらけ。


 周囲からこれでもかというほど注目され、とても断れるような雰囲気じゃなかった。


 ◇


 俺は帰宅すると、急いで部屋を掃除する。あまりきれいになった気はしないが、気持ち的なものだ。


 やがてインターホンが鳴らされ、美月さんがやってきた。


「やっほー。翔クン、来たよー」


 扉を開けると、そこには……お嬢様らしさの欠片もない美月さんの姿があった。


 学園一美しいと言われるブロンドヘアはアップにまとめられ、一部がサイドポニーに結われている。


 服装も……普段、キチッと制服を着ている姿からは想像もできない、ラフで動きやすそうな恰好だった。


「はいコレ、お茶菓子」


「ど、どうも……いつもすみません」


「いいってことよ。お邪魔しまーす」


 俺の返事を待たずに、美月さんは室内に足を踏み入れる。


 彼女が俺の家にやってくる理由はただ一つ。一緒にゲームをするためだ。


 学園では世間体もあるのか、お嬢様モードを貫き通しているが、この人、実はかなりのゲーオタだ。


 つまり、これが本当の美月さんというわけなのだけど……裏表、激しすぎる。


 学園でのお嬢様キャラとのギャップに、俺も最初はかなり戸惑った。それこそ、双子の妹でもいるのかと思ったくらいだ。


「あ、飲み物買うの忘れた。なんかある?」


 美月さんを自室に案内し、用意してくれたお茶菓子……もとい、ポテチを器に出していると、彼女がそう聞いてくる。


「冷蔵庫にコーラがありますけど」


「やた。炭酸とか、普段飲めないからねー。飲んでいい?」


「どうぞどうぞ」


 苦笑しながら答えると、美月さんはキッチンへ走っていった。


 そんな彼女の背中を見送ったあと、俺はゲーム機の電源を入れる。


 数あるゲームの中でも、美月さんはFPSを筆頭に対人系のゲームがうまい。


 加えて、獲得経験値10倍のチートスキルでも持っているかのように、物覚えがいい。


 お嬢様特性なのかわからないが、初めてプレイするゲームであっても、それこそ30分もしないうちに俺を一方的にキルし始めるから、たまったもんじゃない。


「おまたせー。今日もガンウォーやる? モンバスでもいいけど」


「ガンウォーにしますか」


 やがてコーラを二本持った美月さんが戻って来る。


 今日も虐殺タイムの始まりだ。主に俺の。


 ◇


 それから小1時間ほどゲームを楽しみ、戦績は俺の1勝19敗。一度だけでも勝てたのが奇跡だった。


「いつも手ぇ抜いてくれてるんでしょ? 翔クンは優しいなぁ」


 ……いえ、常に全力ですが。


「とりあえず、コーラで乾杯! ゲームのあとに飲むコーラは美味いねぇ~」


「それは同意します」


 ペットボトルを打ち合わせて、同じタイミングでコーラに口をつける。


 学園で見せるお嬢様らしさは微塵もなく……ただのオタクゲーマーがそこにいた。


「やっぱり翔クンとのゲームは楽しいねぇ。今度は二人協力プレイやろうよ」


「いいですよ。いくらでも付き合います」


「おお? 今日は優しいぞ? 何か裏があるのか?」


「ありませんってば。くっつかないでください」


 むしろ、裏表があるのは美月さんのほうでしょう……なんて言葉を、俺は必死に飲み込んだのだった。


 この人の場合、絶対家じゃゲームなんてできないだろうし。


 俺なんかで良ければ、いくらでも付き合ってあげたい。


 ◇


 やがて時間となり、高級外車が迎えに来た。


「翔さん、本日は大変有意義な時間を過ごさせていただき、本当にありがとうございました」


 その頃には美月さんも服を着替え終え、お嬢様モードにモードチェンジ。優雅な所作で一礼すると、車に乗り込んでいった。


「……楽しかったが、なんかどっと疲れたな」


「おにい、美月さん来てたんだ」


 高級車が走り去っていくのを眺めていると、近くから声がした。


 見るとそこに、妹の佐藤 陽菜さとう ひなが立っていた。

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