第5話 ブラコン妹と、その親友の佐藤さんの話 その②


 やがて、風呂の時間になる。


 一番風呂を譲ってくれたのは素直に嬉しいのだが……先程から脱衣所が騒がしい。


 俺は湯船に浸かりながら、耳を澄ます。


「ひ、ひなちゃん、本当にいくの?」


「もちろん! 兄妹でお風呂に入るのは自然なことだし!」


 妹よ、それは小さい頃の話だろっ。高校生にもなったら、それはまったく自然じゃないぞ。


「わ、私も同席していいのかな」


「もちろん! 全然いいよ!」


 全然良くねぇ! このままじゃまずい。何か対策をせねば。


 今にも浴室の扉が開き、妹たちが飛び込んでくるような気がして、俺は必死に考えを巡らせる。


「そうだ。これがあった!」


 俺は急いで湯船から出ると、扉に内側から鍵をかけた。


 普段は意識しないが、風呂場の扉には子どもの事故防止用に鍵がついているのだ。


「ぐぬぬ、おにい、やりおったな」


 それに気づいた妹が外側の鍵に手をかけるが、俺は内側から全力で鍵を守る。


「おにぃ~。あ~け~て~」


「やめろ怖いから」


 曇りガラスに妹の顔が貼り付いていた。


 しばし騒がしかったが、やがて二人は諦めて脱衣所から去っていった。俺はため息とともに、胸をなでおろす。


 今回は機転を利かせたおかげで、快適なバスタイムを過ごすことができたのだった。


 ◇


 さて……問題の就寝時刻がやってきた。一応、来客用の布団は用意してあるが……。


「よいしょ、よいしょ」


 一人頭を悩ませていると、妹は押し入れから布団を取り出し、俺の布団の隣に敷いた。


「よし」


「よし、じゃねぇ」


「えー、でもこれで三人並んで寝れるよ?」


「いや、寝たくねぇし……お前は佐藤さんと二人で来客用の布団を使え」


「さすがに狭いよー。わたし寝相悪いし、佐藤さんが風邪ひいたらどうするの!?」


「いや、その場合、全面的にお前が悪いだけで、俺に非はないんだが!?」


 思わず声が大きくなった時、妹の背後に青色のパジャマを身にまとった佐藤さんの姿が見えた。ものすごく不安げな顔で俺を見ている。


「くそぉっ……わかったよ。一緒に寝てやるよ」


「わぁい!」


 観念した俺は叫ぶように言って、一足先に布団に潜り込む。


 ややあって明かりが消され、二人が布団に入ってきた。


 ……ちょっと待て。なんでお前らが左右に来る?


 二人の策略に気づくも、時すでに遅し。左右から挟まれた俺に逃げ場はない。


 右を向いたら妹。左を向いたら佐藤さん。


 どちらからも、シャンプーのいい匂いがする。


 うちにあるものとは香りが違うし、自前のものを持ってきたんだろうか。


 ついそんなことを考えた矢先、おもむろに……いや、しっかりと妹が俺の右腕に抱きついてきた。


「……おいこら、離せ」


「くー、すぴー」


 ここまであからさまな狸寝入りを、俺は見たことがない。


 ここはなんとか振りほどいて……む?


 その時、おずおず……といった感じに、左腕を掴まれた。


 まさか、佐藤さんまで……なんて考えながら左側を見る。妹と同じく寝たふりをしているものの、その顔は真っ赤だった。


 積極的なタイプじゃないし、呪いで好感度メーターが壊れていたとしても、これくらいが精一杯なのかもしれない。


 ……いやいや、それでも左右から抱きつかれたら眠れない。


 くそ……これは徹夜コースか……?


 まるで妹が二人いるような錯覚に陥りながら、俺はひたすら天井を眺め続けたのだった。

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