第6話 佐藤さんたちと買い物に行った話

「おにい、早く早くー! もう皆、集まってるよ!」


 ある日、俺は佐藤さんたちと買い物に行くことになった。


 どうやら彼女たちは面識があるらしく、俺の知らないうちに買い物計画が進んでいたらしい。


 妹の陽菜ひなに連れられてやってきたショッピングモールの入口には、幼馴染の佐藤 七海さとう ななみをはじめ、三年生でお嬢様の佐藤 美月さとう みつきさん、妹の親友である佐藤 凛さとう りんさんという、三人の佐藤さんが揃っていた。


かけるっ、おはよっ」


「翔さん、おはようございます」


「お、おはようございます。翔センパイ」


「お、おはよ……」


 挨拶を返すも、すでに場違い感が半端ない。


 幼馴染の七海はクラスで1、2を争う美少女だし、社長令嬢の美月さんは言わずもがな。


 妹の陽菜は兄の俺から見ても可愛いし、その親友の佐藤さんも人見知りな性格こそあれど、容姿は整っていて、かなりの美少女だ。


 というわけで、四人の美女に囲まれたモブ男子……という構図ができあがってしまっていた。


「と、とりあえず行きますか」


 周囲を見渡したあと、俺はそう切り出す。


 たくさんの人で賑わう休日のショッピングモール。俺たちのほうを振り返る人も多かった。


 そのほとんどが男で、間違いなく佐藤さんたちを見ている。


 彼女たちもあまり気分が良いものじゃないだろうし、早々に動こう。


 ◇


 それから俺たちは、ショッピングモールの中を練り歩く。


「えーと、最初はどこに行くんだ?」


「そうですね。洋服店に行ってみたいのですけど」


 俺の問いかけに、美月さんが答えてくれる。


 ちなみに今日の彼女はお嬢様モード。ゲーオタモードになるのは、二人っきりの時だけらしい。


「おっ、夏の新作出てる。翔、ペアルック買っちゃう?」


「ぶっ」


 そして気を抜いていたところに、七海の不意打ちが来た。


「それは名案ですね。私も何か翔さんとおそろいの物を……」


「いいねぇ。わたしたちも買おうよ! りんちゃんどうする?」


「あっ、はい。私もほしいです」


 七海のセリフを皮切りに、他の佐藤さんたちも次々とそれに乗っかる。


 佐藤さん同士、仲がいいのは良いことだ。俺を取り合う……って感じじゃなく、シェアしようって雰囲気がある。俺の意思はガン無視だけど。


「あー、荷物は俺が持つから、気にせず買い物してくれ」


 そんな光景を微笑ましく見たあと、俺はそう口にする。


 彼女たちは声が大きいし、荷物持ちにでも徹しないと、周囲の男どもの視線が痛すぎてどうにかなりそうだった。


 ◇


 佐藤さんたちのショッピングに付き合っていると、やがてお昼時になる。


「ねぇキミたち、一緒に食事でもどう?」


「皆かわいいじゃん。俺たち金あるから、奢ってあげちゃうよ?」


 どこで何を食べようか……なんて話していると、大学生らしい男性四人が声をかけてきた。


 ……これはまさか、ナンパというやつだろうか。


「あのー、間に合ってるので、いいですー」


「まーそう言わずに。良いお店知ってんだよね」


 七海が中心となって断ろうとするも、大学生たちはなかなかにしつこい。


 ……というか、俺の存在は完全に無視されていた。


「ちょっとおにい、助けてよ!」


 恐怖に耐えられなくなったのか、妹が叫ぶように言う。


「あー、スミマセン。ちょっといいっすか」


 困っている皆を見かねて、俺は荷物を置いて大学生たちに話しかける。


「あ? 何お前」


「ヤローはお呼びじゃないから」


 すると、その中の一人が俺の腕を掴み、強引に集団から引き剥がされる。


「ちょっとやめてくださいよ、彼女たち、困ってますよ」


「あーあー、聞こえないね」


 心底めんどくさそうに言い、俺の腕に力を込める。


 ……その気になれば、相手の腕をへし折ってやることもできるんだが、佐藤さんたちの手前、暴力沙汰は避けたい。なんとか穏便に済ませられないものか。


「おっ、翔じゃん。何やってんだ?」


 ……その時、聞き覚えのある声がした。


 そこに立っていたのは、同じクラスで野球部の佐藤だった。


「む? これはあれか。ナンパの現場ってやつか」


「あいつら、うちのクラスのお嬢様に何してくれちゃってるんだ」


 その佐藤に続いて現れたのは、柔道部の佐藤と、ボクシング部の佐藤先輩だ。その隣には、空手部の佐藤先輩の姿もある。


 彼らは皆、呪いによって俺と仲良くなった佐藤さんたちだ。


「実は、佐藤さんたちがナンパされちゃってさ……」


 俺は腕を掴まれたまま、これまでの経緯を四人の佐藤に話して聞かせる。


「よーし、大体の事情はわかった。あとは俺たちに任せな」


「あ、ありがとうございます」


「気にするな。翔と俺たちの仲じゃねぇか」


 ボクシング部の佐藤先輩はニヤリと笑い、大学生たちに向き直る。


「あー、兄さんたち、ちょーっといいかい」


「な、何だお前ら」


「通りすがりのただの佐藤だよ」


「飯なら俺たちに奢ってくれないか?」


 彼らは凄みを利かせながら、大学生たちに迫っていく。


 ある佐藤はファイティングポーズを取り、別の佐藤は指の骨を鳴らす。ただそれだけなのだけど、彼らの逞しい容姿も相まって、効果は抜群だった。


「わ、悪いな。用事を思い出したわ」


「お、俺もだ」


 大学生たちは先程までと打って変わり、今にも泣きそうな表情で逃げ出していく。


 その様子を見て、俺は胸をなで下ろしたのだった。




 ……運動部の佐藤さんたちにお礼を言って別れたあと、なぜか俺は褒め称えられていた。


「おにい、さすがだね!」


「いや、俺は何もしてないし……佐藤さんたちのおかげだよ」


「それでも、翔のおかげで助かったようなものだし」


「そうですわ。人脈は武器です」


 七海や美月さんからそう言われ、俺はどことなく嬉しくなる。


 この呪いも悪くないかもしれない……そう思った瞬間だった。



 ――こんな佐藤さんだらけの日々は、これからも続いていく。

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佐藤まみれ!~学園中の『佐藤さん』から好かれる呪いを受けまして~ 川上 とむ @198601113

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