06 藤堂兄弟
放課後――委員会の仕事があるという智花と教室で別れてひとり帰路につこうとしたとき、校門のあたりが騒がしかった。何かあったのか、とうっすら芽生えた野次馬根性と共に近づいていったときだった。
「あ、咲綾ちゃん」
輪の中心にいた人物が、すっと片手を上げた。
「……っ⁉」
藤堂都築。伍菱高校の生徒会長、とつい数日前に智花から聞いたばかりの情報が頭をよぎる。
都築が柔らかく咲綾を呼ぶと、彼を囲んでいた鷺宮学院の女子生徒たちは一斉に振り返った。思わず後退った咲綾を、都築はじっと見つめていた。
素通りすることは許されない雰囲気が作り出されている。突き刺さるような視線を浴びながら校門近くまで近づいていくと、都築はにっこりと微笑んだ。
「あの……」
どうして此処にいるのか、とは言いだしづらく咲綾が口ごもると、引き取るように都築が言った。
「君を待っていたんだ」
「は……い?」
呆然とする咲綾の背後で女子生徒たちの悲鳴が上がる。
そのとき都築の他にもうひとり、この場の中心にいることに咲綾は気が付いた。
「ふうん、これが」
都築の少し後ろで腕組みした眼鏡の青年は、確か――藤堂榮、という名前だったはずだ。美貌の藤堂兄弟、ファンクラブもとい親衛隊が結成されているとか。いまも背中にじっとりとした恨めし気な視線を感じる。咲綾はいますぐにでも此処から立ち去りたい衝動にかられた。が、独力で人垣を突破するのも難しい。
「咲綾ちゃん、これから時間あるかな」
「えっ」
「ちょっと話したいことがあるんだけど――ああ、紹介が遅れたね。この不愛想なやつは僕の弟の榮。榮、ご挨拶して」
「……お前が『口』か。ただのガキにしか見えないが」
榮、とため息交じりの声で都築が呼ぶと、ふんと鼻を鳴らした。愛想がないどころか初対面だというのに嫌われているんじゃないか、とさえ思える。なんとも居心地が悪い状況に、どうやって逃れたものかと咲綾が考えていると、
「最近、あまり……眠れていないんじゃない?」
穏やかな都築の声にぎくりとした。
ぎこちなく顔を上げ、都築を見ると困ったように眉を下げて言った。咲綾にしか聞こえないくらいの小さな声で。
「君がみる夢のこと、僕たちなら少しは協力できるんじゃないかと思うんだ」
そっと囁いた都築を睨み、榮が舌打ちした。
宵闇絶佳~桜世町幻魔譚~ 鳴瀬憂 @u_naruse
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