05 繰り返す悪夢
かりかりとシャープペンシルの芯が答案用紙に刻まれる音が響いている。
教室の中は静まり返っていて、誰ひとり声を上げない。悩まし気な吐息や無情に進み続ける時計の針の音まで聞こえるくらいだ。
そんな中、必死で咲綾は答案に向かい合っている。これはこないだ習った公式を使えば解けるはず――こっちは、ええっと。考え込む咲綾の集中を切るように、一斉に椅子を引く音がした。
セーラー服姿の少女たちが立ち上がり、教卓の上に答案用紙を提出する。まだ制限時間は十分すぎるほどにある筈なのに。そして教室を出て行ってしまい、室内には咲綾だけが残された。
半泣きになりながら咲綾は問題を解いていく。それでもまだ解答は用紙の半分程度しか埋まっていない。紙を押さえる手に汗が滲んだ。わたしも早く解かなくちゃ、みんなに置いて行かれてしまった。焦りながらも頭の中をフル回転させているときだった。
ことり。
教室の一番後ろのあたりで何かが落ちる音が聞こえた。
誰かが消しゴムを落としたときみたいな音だ。
でもこの教室には咲綾を除いて他に誰もいない。いなくなってしまった、はずなのに。
ことり。
今度はもっと近くの席で、何かが落ちる。
近づいてきている――いますぐにでも此処を出なきゃ。そう思うのに、答案を埋める手は止まらない。もうテストなんかどうだっていい、早く、急いで。頭ではわかっているのに。かつかつかつ、とシャープペンシルが紙に当たる音ばかりがうるさく鳴り続ける。
ごとん、とひときわ大きな音が背後から響き、咲綾は肩をすくませた。
そのとき机の上、ペンケースの中から見覚えのある巾着袋が目に入った。
『いまの君には必要なものだ』
たったいま耳元で囁かれたかのように、その言葉が頭にすっと浮かび上がる。震える指で巾着袋から鈴を取り出すと、ちりりん、と涼やかな音が鳴った。
薄桃色の鈴が、徐々にどす黒く色を変えていく。
ちりりん、ちりりん。
教室に鳴り響く鈴の音を耳にしながら咲綾の意識は浮上した。
がばっと起き上がり、きょろきょろと辺りを見回す。咲綾がいるのはいつもどおりの自分の部屋で教室などではない。
そのことに安堵するとともに、右手でぎゅっと都築にもらった鈴を握り込んでいたことに気付いたのだった。
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