書いていないと不安になるいきものなので、新作を書き始めることにしました。異世界恋愛で偽装婚約×男装女子ものです。ネタバレですがヒロインのルカは女の子なのでブロマンスでもBLでもありません。
プロローグまで書けたので読んで行ってくださいませ~。ちなみにメイン視点をヒーローに固定して書いてみることにしました。
******
ルカ・バトラーを特別美人だと思ったことはない。
ちょっと気が利くだけのただの後輩であって、ジェラルドにとってはそこらに転がっている芋どもと大差ない――そのはずだった。
マグノリア王立騎士団の詰所。部隊長の特権で与えられた個室へ、淹れたばかりの茶を運んで来たルカをじいっと見つめていると、同年代の騎士見習いたちよりもすこし高い声で「なんでしょうか」と尋ねてくる。そういうところがどこか彼を中性的に見せていて、十八歳という年齢のわりに青年というよりかは少年然としている。肩までの茶色の髪をまるで尻尾のように紐でくくった髪型が子供っぽいせいかも。
だからこれはほんの気まぐれであり、気の迷いに過ぎなかった。
「あのさ、俺の婚約者になってみる?」
ルカの緑の両目が大きく見開かれたのを、ジェラルドはああ、こいつの顔やっぱり案外悪くないな、と思いながら見ていた。
ちょっと待ってください、とかたかた震える手でお茶をテーブルに置いてから、ルカは言った。上官であるジェラルドの執務室で熱々の茶が入ったティーカップをひっくり返すという粗相をしないようにしたのだろう。
そういうところが律義で、好感が持てる。だからこいつに頼もうと思ったのか、と後になってわかった。
「こ、婚約者……」
「そ。って言っても婚約者の振りだけどね。無理を言っているわけだし給金は弾むよ? 時間外も拘束することになるかもだし、手当の他にも希望があれば優遇してあげる。どう、俺って優しいでしょ」
そういう問題じゃなくて、と蒼褪めた顔でルカは言う。
「なんで僕が、ジェラルド先輩の、婚約者、なんですか! こう見えて僕、お、男なんですよ……?」
「ひとつ」
ジェラルドは、指をルカの前にずいと突き出した。
「俺は女が大嫌い」
低く醒めた口調で言い切ったジェラルドを見て、ルカは息を呑んだ。
「ふたつ。実家であるカルセドニ伯爵家が次男である俺に身を固めさせようと躍起になって、とびきり頭の悪そうな女を押し付けようとしている。正直、そんな奴の相手をするのは非常にめんどくさい」
はあ、と気のない返事をしたルカのために仕方なく、言葉を追加してやった。
「だから身代わりが必要なんだよ、俺には心に決めた相手がいます、ってね」
具体的に言えば夜会などに連れ歩いて親密な関係にある相手だと紹介すれば、父母も観念するに違いない、との判断である。結局、あいつらは次男であるジェラルドが誰と結婚しようが構わないだろう。大事なのは可愛い長男様だ。
「先輩、女性が嫌いというわりに外面は良いですもんね……。しょっちゅう詰所にもお手紙や贈り物が届けられているのを見かけます」
納得したように頷いたルカにジェラルドはイラっとした。そこまで言われる筋合いはないので、ルカの採点表から密かに減点してやることにする。
「でも、どうして僕なんですか?」
「ふふ、ユージーンと話してたんだよ。お前は小柄だし悪くない顔しているからね。華はないけど及第点ってとこ。女装でもさせれば、そこそこ見栄えはするだろうし」
すこぶる嫌そうに顔をしかめたルカの頭をぽんぽんと撫でてやる。
「何、そんなに女の子みたいに扱われたのが不満なの? 可愛いねえ、誉め言葉なのに。このむさくるしい騎士団にルカみたいなのがひとりいるのといないのとでは大違いだし」
ぶるぶると震えたルカは生意気にもジェラルドを睨んで来た。怒っているらしいが、小動物が必死に威嚇しているようにしか見えない。
「あのさ、言っておくけどこれは命令だよ。お前に拒否権はない」
びくっとルカの肩が跳ねるのが見えた。
生意気に吠える部下を屈服させる瞬間がたまらなく好きだ。生きている、と思える。
「わかったら、はい、と言え」
「……はい。承知、しました」
渋々と言った表情で承諾したルカを見下ろしていたときには思いもしなかった。
ルカ・バトラーが、こんなにも「化ける」だなんて。