今通った人は誰?

塚本 季叡

今通った人は誰?

 これは今から20年ほど前のある夏のの出来事である。

 当時小学生だった私は弟と夏休みを利用して父方の祖父母の家に泊まっていた。振り返ればちょうどお盆の時期だったように思う。

 いつもなら2階の部屋で寝るのだが真夏ということもあってか祖母の配慮で応接間というか広い仏間に布団を敷いてもらい、その日は扇風機を回して寝る準備をしていた。今みたいに夜でもそれほど暑くなく、扇風機から放たれる涼風が気持ち良かったのか、弟はすぐさま眠りの世界についたが私は何故かなかなか寝付けずにいた。居間から聞こえるテレビの音と祖父母の会話に何となく耳を傾けて自然と眠りにつくのを待っていた。時間も子供が寝る時間には相応しいが、大人が束の間の団欒を楽しむくらいだからせいぜい21時頃だった。

 仏間の扉は引き戸になっていて上半分ほどに擦りガラスが入っていた。はっきりとは分からないが廊下を通れば人影がぼんやりと映る。

 当時の祖父母宅では祖父母と叔父が一緒に住んでいた。確かその日は叔父が私たちが寝る時間になってもまだ仕事から帰ってきていなかった。

 何気無く仏間の扉を見上げるようにして布団に寝転んでいるとスッと擦りガラスに人影が映り、玄関の方に向かって行った。

 私はてっきり祖父母がトイレにでも行ったのだと思った。叔父が帰ってきたら居間の方向に向かうので廊下を逆に進むことになる。それは人影の動きからしてあり得ない。しかし居間からは相変わらず祖父母の話し声が聞こえる。と言うことは2人ともトイレや玄関に向かってはいない。なのに人影が廊下を通り過ぎて行った?

 矛盾に気付くと途端に怖くなってきた。この家には祖父母と叔父、そして私と弟しか出入りしていないはずだ。じゃあ今通ったのは幽霊ってこと?

 そんなことを考えていたら祖母が仏間に入ってきた。どうやらテレビを見終わり、寝に来たようだ。祖母とも川の字になって寝ることが多かったので私は眠ったふりをした。さっきの人影のことは気になったが一瞬だったので気のせいだったかもしれない。それに祖母に話しても信じてもらえないかも。

 確かに20年以上経った今でもあのときの人影が何だったのかは分かっていない。実際それ以降は家族以外と思われる人影を1度も見かけなかった。しかし今ではあのときはちょうどお盆の時期ということもあって私は叔父の帰宅が遅かったから心配して玄関や近所に様子を見に行ったのかもしれないご先祖様だったのではないかと秘かに思っている。そう思わなきゃ未だに疑問と少しの恐怖が残ってしまう。

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今通った人は誰? 塚本 季叡 @love_violin_tea

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