ヤマアラシのジレンマ。

 二匹のヤマアラシは互いを愛おしく想いながらも、自分の体の針で近づけば近づく程相手を傷つけてしまいそうで、なかなか近づけない。

 右目の視力を失った小説家を志す青年『藤波那智』と全色盲だが夢を諦めきれずにイラストレーターを志す男性恐怖症の『姫代橙樺』。孤独で生きていく意義も見いだせないながらも死ぬのが怖くて毎日を惰性で生きて来た橙樺だったが、那智と出逢った事により次第と生きる楽しみや幸せを少しずつ見つけ出していき、那智の方もそんな橙樺に次第と惹かれていく。
 この物語の良いところは、それぞれの登場人物がどこか不完全で致命的な問題を抱えているという事。人間とはそもそも完全では無くて、大なり小なり必ず不完全な部分を合わせ持っています。だからといって、それは必ずしも不幸ではなくて、それを理解し補ってくれる人がいれば、幸せになる事も可能なんだとこの作品を読めばわかります。
 物語の季節は冬で、夏よりもクリスマスの季節に読みたくなる作品ですが、おすすめの作品です。

 

その他のおすすめレビュー

夏目 漱一郎さんの他のおすすめレビュー451