第三話 いざ冒険へ…の前段階
薬草園を営む老夫婦には、お世話になっている。
生涯を薬草園にささげたその誠実さは、育つ薬草の大きさに表れている。
だが、薬草はグレードの低い、コモンに属する[爽やか草]。
いくら品質が良くても種類が良くなければ買い付けされる値段はとても低い。
彼らもそのことに悩んでいたので、思い付きだが提案してみた。
老夫婦はとても喜び、次の日にさっそく種の買い付けに行ったようだった。
次に会った時は、すでに芽が畑から顔を出していた。
その笑顔に、とても心がざわめいた。
クロムウェル・アンバーの日記より
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街の端にある、小さな菜園。と言っても以外に広い。
そこは、老夫婦が営む、錬金術に使う薬草を栽培する菜園だった。
そこからの[草刈り]の依頼にやってきた。
「クロムウェルちゃん、久しぶりねえ~。今日はよろしくね」
柔らかな声と顔で迎え入れてくれた老夫婦の妻、マシカ。
「儂らも、歳には勝てんでな、草を刈るのも一苦労だわ」
鎌を手渡してくれたのは、老夫婦の夫、アリオ。
「そんじゃあ、任せたぞ」
畑の敷地面積は大きく、とても一日で一人でやれる気がしない。
だが、今朝の実験でゴーレムには草刈りに向いていないことは分かっている。
ならば、スケルトンか……?。
いやでも、さすがに見た目が悪すぎる為、さっきの荷物運びでも選ばなかった。
ならば手作業で、っというわけにも……さて、どうしようか。
「お二人は、その、スケルトンって、知ってますか?」
老夫婦は目を見合わせて、夫のアリオが口を開いた。
「ああ、一度だけな。あれは恐ろしかったぞ。腰を抜かしてしまったほどじゃ」
青い顔で、震えるアリオ。
うん、なるほど、無理だな。
なら、ゴーレムで……うーん。
せめてスケルトンほど自由に動いてくれれば良かったんだが。
「……ん?」
それができれば、かなり便利だな。
「アリオさん、少し席を外していいですか?」
突然のお願いに、少し驚いた様子だったが、アリオは優しい顔で了承してくれた。
菜園から離れて、彼らの一軒家を隔てた木々のなる林まで来た。
「さて、うまくいってくれよ」
まずは、辺りを見渡して、誰もいないことを確認すると、スケルトンを作成した。
…カタ……カタ…カタ…
軽い音をたてて、立ち上がった。
続いてはその体に[魔力を帯びた土]を張り付ける。そして[ゴーレム作成]を唱える。
すると、蠢く土は、スケルトンの体中を覆い、丸みを帯びた体へと変形した。
「うまくいった!」
これなら、スケルトンと見間違うことはない。
ついでに耐久テストとして、足元に転がっていた木の棒を手にして叩いてみた。
カツンッ!
硬い感触と音が鳴った。
「よし、これなら」
ゴーレムとスケルトンの組み合わせたモノ。
とりあえずの名称「ツチヨロイ」と名付けて、老夫婦の元にも連れていった。
「な、なんじゃソイツは」
驚くアリオに、
「あら~大きくてかわいいわね~」
その姿に、微笑むマシカという対照的な反応を見せる二人。
「僕が呼び出した、ゴーレムなので大丈夫ですよ」
と、アリオを落ち着かせて、[ツチヨロイ]に命令を下した。
「この畑の、薬草以外の草を刈っていってくれ」
…オー…
声にならない声を出した[ツチヨロイ]は、菜園の中に入っていった。
スケルトンに比べて動きは遅いが、ゴーレムよりも柔軟な可動域で、膝を曲げて草を刈り始めた。
「クロムウェルちゃんは、魔法が使えるようになったのねぇ~、良かったわね」
マシカは、本当にうれしそうに皺が作って笑顔を向けてくれた。
「ありゃ、本当に大丈夫なのか?」
そう心配するアリオに、
「問題ないです」
と返すと「そ、そうか、クロムウェルちゃんがそういうなら」と受け入れてくれた。
[ツチヨロイ]が作業を進める間、家へ案内された。
食卓に座るように勧められ、その行為に甘んじていると、
爽やかなにおいを連れて、マシカがティーポットを持ってきてくれた。
「これでも、飲んで」
木のカップに注がれたハーブティーを目の前に置いてくれた。
「ありがとうございます。……おいしいですね、これは」
「ふふふ、そう?良かったわ……それにしても元気そうで何よりね」
「というと?」
「この前まで、なにか思い詰めているようだったから、心配だったのよ」
マシカは、夫の分まで注ぎ終わると、椅子に座った。
「そうですね、心配させてしまって申し訳ないです」
日記に書かれていたクロムウェル・アンバーの心情では、確かに見た目にも表れていたとしてもおかしくない。
すこし空気が重くなる。それを察したアリオは立ち上がり、
「そうだ、クロムウェルちゃんに見せたいものがあるんだ」
と部屋の奥へと向かい、物音をいくつか立てた後に、戻ってきた。
アリオの手には、木の籠がありその中には、大量の黒い豆のようなものがあった。
「これは?」
「わかるじゃろ?黒種草の種だよ!ようやく収穫できたんじゃ」
たしか、日記に書いていた。老夫婦に提案したことがあったらしいが、なるほど、このことだったのか。
黒種草は、属性は火、特性は爆発となっている錬金術にも使われる薬草の一種だ。
冒険者に広く使われる[赤の爆薬液]の材料になる。
「冒険者ギルドとの商談も上々でな契約できたんじゃ、だからこれはそのお礼じゃよ」
籠一杯の黒種と、薬草を手渡された。
作業を終えた[ツチヨロイ]に持たせて一旦帰ることにした。
…ゴポッゴポッ……ゴポッ…
泡と立てて、結晶液に混ざり緑色に変色したポーション。と赤い色のポーション。
[赤の爆薬液]と、[小治癒のポーション]が出来た。
小瓶に移したあとに蓋をして、ポーチに仕舞う。
「ふぅー」
一息吐いて伸びをする。少し横になりたい衝動を抑えて立ち上がる。
「準備は出来た、行くか!」
ようやく、今日の目的である、モンスターとの対峙に向かうため扉を開けた。
闇の儀式に手を出したおっさんに転生した暗殺者のおっさん。 新山田 @newyamada
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