第二話 ゴーレムと荷物運び
冒険者になって、自分の才能の無さに失望する毎日だ。
剣を振ってみても、槍を振ってみても、杖を取ってみても、一向に上達することはなかった。
スキルに目覚めることもない、同じ時に同じ武器を握った者が、
どんどんと自分の背中を追い抜いていくのがつらくて、
なけなしの金で酒を飲んで誤魔化した。
冒険者アセンブリーの中に入れてもらっても、すぐに戦力外にされる。
この街じゃ、一番懐の大きい[自由な歩み]にも見放された。
今じゃ冒険者ギルドの笑い者だ。
クロムウェル・アンバーの日記より
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冒険者ギルドに辿り着いた。
扉を開くとそこには待合所になっていて、その奥に受付があった。
受付にはそれぞれ、依頼受注カウンター、新規登録、クエスト素材回収などの看板が掛けられている。
中にいる者の動きを見てみると、壁に貼られた紙を取り、依頼受注カウンターに並んでいる。
同じように髪が貼られた場所に向かう。
依頼ボードと書かれたそのパネル状の壁掛けには、いくつもの依頼が貼られている。
その内の一つを手に取ろうとしたとき、背後から手が伸びそれを阻止された。
「おいおいおい、無能のクロムウェルが一丁前に依頼書取ってんじゃねぇよ」
大きな男が声を掛けてきた。
その男は、特徴的なツルツルな頭に、金のピアスをしていた。
(こいつは日記に書かれていた復讐者リストの男、ラクソンだな)
「なにこっち見てんだよ、失せろ」
威圧的な言葉とそれ以上に威圧的な顔。これだけ近ければ急所を突きたい放題だが、スキルなるモノがこの世界にはある以上それがどのように作用するか分からない。
などと思いながらも、
彼と依頼ボードから一歩離れる。
「それでいいんだよ」
「ギャハハ!」
彼の背後には取り巻きがいた。今のやり取りを見て愉快そうに態度をしている。
(確かに、これが毎日続けば、腹も立つな……)
「ちょっと!ラクソンさん!またクロムウェルさんをいじめて!ダメですよ!」
「ちっ!」
受付の中から、冒険者ギルドの制服を身に着けたうら若き女性が近づいてきた。
大きな体のラクソンに怖気づくことなく彼女は声を上げる。
「ラクソンさん!あなたはこの街一番の冒険者なんですから、少しは自覚を持ってください!」
「はいはい、わかったよ、アネスの嬢ちゃん」
ラクソンは、アネスをあしらう様にその場から後にしようと踵を返した。
「女に庇われるなんて、冒険者失格だな」
その場を去るその瞬間に、アネスの後ろに立っていた俺の耳元に、そう囁いた。
「ちょっと!」
アネスの制止する言葉を返すように、
手をひらひらと動かしながら、取り巻きを連れて今度こそ去っていった。
自分より歳も若く、体の小さいアネスに庇われる。
これも、クロムウェルの日記に書いていた、屈辱感の一つだったのだろうな……。
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ラクソンの背中を見送り、アネスに受付に案内された。
席に着くと、アネスはさっそく依頼書を二つ机に置いた。
「すいません……受領したいのは山々なんですが、ラクソンさんの言う通り、あそこにある依頼のなかでギルドからクロムウェルさんに任せらせる依頼は、これしかないんです」
渡されたのは、薬草師の畑の草刈りと、ギルドへの荷物運び、だった。
「これが、冒険者の依頼なのか?」
「そうです、クロムウェルさんの今までの事を加味して依頼できる最大限なんです……すいません」
「……なるほど」
日記の内容を思い出す。
彼は長らく冒険者をやっていたが、自分の才能を見出すに至らなかった。その結果として依頼の達成率が低い場合がおおく、一体のモンスターを倒すことも困難だった。
そのため、彼のギルド内評価は地の底となっていたみたいだった。
まあ、それはしょうがない。世の中というのはそういうモノだ。
この評価を上げるには、モンスターを倒すしかないが、今はそれができない。
それなら自分で勝手に、モンスターのいる場所にいくしかないか……。
「その二つの依頼、受けよう」
とりあえずは、日銭でも稼がなければ……。
「ありがとうございます、頑張ってください!」
二つの依頼書に、名前をサインしてその場を去った。
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冒険者ギルド御用達、運送商[ナンデモゴザレン]に辿り着く。
「おー、今日も来たかー助かるよ!」
バンダナを頭に巻いた歳のいった男がこちらに手を振るが、『うっ!?』という声の後、腰を擦って大きな木箱に腰を落とした。
「悪いな今日も……腰が治ればこれくらい、一人で問題ないんだがな」
彼の周りには、馬車に積まれることを待っている木箱が並んでいた。
「頼むよ!って、いたたっ」
彼の名前は、モクル。
腰が悪いらしく、荷物を運ぶことができないと、ギルド依頼していたようだ。
「荷物の量からして、一人では時間が掛かりそうですね……」
「たしかになー、だけど来てくれるのはお前さんくらいだよ」
まあ、戦いや冒険を生業とする者に頼むような仕事ではないような気はする……。
この仕事を今日一日やり続けるわけにもいかない。
腰のポーチに仕舞っていた小箱を取り出す。中身は[魔量を帯びた土]。
ここは、ゴーレムを使って作業を済ませてしまおう。
「お?おおお、なんだ。クロムウェル君は魔法が使えたのか!」
運送商の男モクルは、土から出来る人形の姿を見て驚いている。
ひざ下ほどの身長の土人形が、10体ほど完成した。
単一行動しかとれないが、そこは工夫する。
バケツリレー方式で、右から右へと木箱を手渡ししていき、
馬車の足乗せでそれを受け取る者、その上で荷物を奥に詰める者を設定していく。
手際よく、土ゴーレムたちが運んでいく。
思ったよりもうまくいっているようだ……。
「魔法ってやつは便利なもんだな!」
モクルさんも物珍しそうにゴーレムたちを見て、喜んでいる。
「ゴーレムってのは、貸し出せたりしないのかい?」
作業の終わりごろに、モクルさんから質問を投げかけられた。
確かに、[魔量を帯びた土]を使えばゴーレムは生み出せる。
だが操作や動きの設定には逐一魔力の消費が行われる。
「モクルさんに、[精霊]スキルがあれば貸し出せますよ」
「そんな上等なスキルがあれば、こんな仕事していないさ!」
モクルさんは、「やっぱそんなうまい話はねぇーか」と頭を掻いた。
ゴーレムの貸し出し……ね。
思考の片隅に、そのアイデアは置き、もう一つの依頼に向かうことにした。
「ほい、これ!」
手渡された袋の中には、この地域で使われている硬貨が入っていた。
「報酬はギルドからいただきますよ」
と受け取らず、モクルさんの手元に押し戻す。
「いいんだよ、特別報酬ってやつさ!いつもよりはやく終わったし、だれもやりたがらねぇ仕事を引き受けてくれたんだ。助かったよ!」
半場無理やり手に乗せられると、『じゃあな!』と腰を擦りながら、馬車に乗ってしまった。
「また、頼むぜー!」
笑顔でそういうと、手綱を引いて馬を走らせ去っていった。勢いが強いがいい人だなと思いながらその背中を見送った。
次は、薬草師の所に向かおうと、特別報酬をポーチに仕舞い、その場を後にした。
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読んでいただきありがとうございます。
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