第60話

専門学校の卒業式が終わって間もなく、僕は四月の個人事業開始に向けて、部屋の模様替えと大掃除をしていた。卒業式直前には、地元の税務署に開業届と青色申告の手続きを済ませ、4月1日に個人事業を開始するという公表を済ませるのみとなった。そして地方への就職が決まった友達たちは皆、それぞれ旅立っていった。

HMからのLINEが届いたのはそんな時で、東京に行く前に最後にもう一度行きつけの居酒屋へ行こうという話になったのだ。僕はすぐさま返信をし、翌日、僕はHMと会うことになった。

駅の改札口で集合し、僕とHMは居酒屋へ足を運んだ。引っ越しの準備の最中に、僕が作った海外研修のアルバムを見つけたと言って、実物を持ってきたHM。そのアルバムを見ただけで、僕は思わず目に涙が浮かんでいた。そればかりかHMは、僕宛の手紙も用意してくれていた。かくいう僕も、HMに宛てた手紙を用意していた。


居酒屋の若女将から、東京へ行く餞別だと串もの一品サービスしてくれて、別れを告げた後、僕らは店を後にした。そこで僕は、ずっと貯めていた心の内を告白という形でHMに告げた。すごく嬉しいと言われたものの結局は断られてしまったが、自分の気持ちを正直に伝えられたことに、後悔はなかった。駅に着いたとき、お互いにグッと涙をこらえながら優しく抱き合った。そして、改札口へ入っていくHMの後ろ姿を、僕はただ呆然と見送っていた。

家に帰宅してから、僕はHMからもらった手紙を読んだ。そこには、3年間の感謝が丁寧に書き綴られていた。読んでいくうちに、どんどんと涙が込み上げてきた。泣いた赤鬼の話のように、僕はHMからもらった手紙を、何度も読み返しては泣いていた。この2日後、4月1日を迎え、僕は個人事業をスタートさせ、HMは東京に旅立っていった。怒涛の専門学校の3年間を過ごした僕たちだったが、それぞれまた新しい生活が始まろうとしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

男、突っ走る!(専門学校篇) 壽倉雅 @sukuramiyabi113

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ