こうしょうにんのしょくばたいけん

ちびまるフォイ

ムダな交渉という名の解決策

「立てこもり犯に告ぐ! 抵抗はやめて出てきなさい!」


「うるせぇ! こいつが見えねえのか!

 金と逃走用の車を用意しなきゃ、この女の命はねぇぞ!!」


「ぐぬぬ」


「てめぇじゃ話にならねぇ! 交渉できるやつを連れてこい!」


犯人は空に向かって威嚇射撃を放った。


「しょうがない……。交渉人をここに」

「はっ!」


まもなく交渉人が現場へ着任した。

手をつなぎながら黄色い帽子をみんなかぶっている。


(せーのっ)


「はんにんさん \はんにんさん/

 たてこもり、おつかれさまです! \おつかれさまです/」


聞こえてきた声は元気な子どもの声だった。

犯人がふたたび外を見ると、〇〇小学校3年1組のみんなが来ていた!


「なんだよこいつらは! ちゃんとした奴よこしやがれ!」


「彼らはちゃんとした交渉人だ!

 交渉の職場体験キッズニアから来てくれたんだ!」


「むだなてーこーはやめてでてきなさい! \でてきなさい!/」


「いちいち卒業式の呼びかけ方式で語りかけるんじゃねぇ!」


すっかり毒気を抜かれた立てこもり犯だったが、

ここで折れるわけにもいかない。


「せーのっ、こきょうのおかあさんが、ないてるぞ! \ないてるぞ!/」


「なんだろう。全然語りかけられてる感じがしない!」


「せんせー。はんにんが出てこない」

「恥ずかしがり屋さんなのかなぁ」

「でもこのセリフ言ったら出てくるって書いてるよ」

「そうねぇ。不思議ねぇ」


「おい拡声器のスイッチ切り忘れてんぞ」


あえて交渉ができない人間をよこすことで犯人が諦めるという、

そういう作戦のひとつなのかもしれない。


「誰がそんな手に乗るかよ。絶対に諦めないぞ……!」


むしろ決心を固くした犯人。

交渉人(7さい)たちは別の作戦に打って出た。


「それじゃみんなでお歌を歌いましょう」


「はーい!」


「いくよ、せーのっ」


「「 かーーさんがーーよなべーーをしてーー♪ 」」



「合唱に感情移入できるかぁ!!」


ステキな歌声が町内を包んだ。

誰もがやさしい気持ちになるが、犯人だけは荒れたままだった。


犯人の語調強めの言葉に子どもたちは気圧されてしまう。

そしてーー。


「うっ……うっ……うえぇぇん……!」


ひとりが泣き出してしまった。

すると悲しい空気感が他の子供にも伝わってみんな泣き始める。


これには犯人もなぜか罪悪感を感じてしまう。


「ひ、卑怯だぞ! 泣き落としなんて!!」


「うぇぇーーん! がんばったのにーー!!」


「ぐぅっ……! なんだこの申し訳無さは……!!」


犯人の心がグラつきはじめる。

まるで自分が大人げないことをしたような気持ちになる。


周囲を包囲する警察官もこれには手応ごたえ。


「ようし、あともう少しだ!」


そう思った矢先、犯人がなにやら電話をかけはじめた。


「貴様! どこへ電話した! 仲間か! 応援を呼んだのか!」


「なんで包囲されてるのに応援呼ぶんだよ」


「じゃあどこへ電話した!! 言え!」




「児童労働相談センターに電話した」



まもなく電話を受けてすっ飛んできた職員が、

深夜労働をさせまいと子どもたちを保護して連れて帰った。


「ああ、あとちょっとだったのに!!」


「残念だったな。子供を使うなんて卑怯なマネするからだ!」


ふたたび犯人は自分が立てこもり犯であることを思い出す。


「さあ、次こそちゃんとした交渉人をよこせ!!

 要求をきけば人質は解放してやる!!」


「くっ……しょうがないか……!」


ついに観念したとばかりに部下に声をかける。

人垣から現れたのは制服を着た警官だった。


「やっとまともな交渉ができそうだぜ」


その凛々しく自信に満ちた顔つきをみて、

犯人はやっと交渉が先に進むとうれしくなった。


交渉人は拡声器を受け取り、犯人へ呼びかけた。



「今日、1日交渉人となったお笑い芸人・山田一郎だ!

 ムダな抵抗はやめて出てきなさい!!」




「交渉させろやぁぁーー!!」


犯人は我慢の限界がきて自分のこめかみにへ銃を撃った。

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