第二十七話 「引退」
──おい、来たぞ。
そんな声がどこからか聞こえ、フランはまたかと眉根を寄せた。
「あ! こっちですこっち! ロベルさん⋯⋯とフランさん、無事帰還できたようで何よりです!」
「ああ。──フラン」
「ん」
ロベルの呼び掛けに応え、フランは魔法で、何も無い空間から飛竜の爪を四体分出現させた。
周囲の好奇の目は意図的に無視するようにした。
「
おお、と周囲が
しかしそれも当然のことである。何せ、僅か一年足らずで一級に昇級した期待の若手パーティが、高難易度の依頼を推奨人数を下回った状態で完遂してきたのだから。
「相変わらず凄まじいことを成し遂げますね。⋯⋯では、報酬の方を用意させて頂きます。あ、それから、フランさんの魔法に収められている飛竜四体分の死体は、いつも通り組合に提出して下されば、その分報酬を上乗せ致しますが」
「ああ、それで良い。⋯⋯が、竜鱗を一枚と尻尾を一本だけ残してくれ」
「承知致しました。では、フランさんは解体室へ」
フランは素直にその言葉に従い、手配された別の職員の案内のもと、解体室へ向かった。
ロベルティーネと擦れ違う際、彼女が態とらしく目配せしてきたことは気にしないことにした。
◇◇
「お前はどうしてフランを冷遇する?」
「⋯⋯どうして、そう思うのですか?」
「見ていれば分かる」
「女心と言うものですよ。ロベルさんには分からないでしょうけど」
「そうか、まあいい。──ああ、そうだ。言い忘れていたが、俺とフランは今日をもって冒険者を辞める」
「そうですか、では手続き、を? ⋯⋯⋯⋯⋯⋯ええええええええええええええええ!?」
ロベルティーネの声に共鳴するようにして、会話を盗み聞きていた他の冒険者たちも驚きの声を上げる。
「ちょ、ちょちょ、え!? マジですかそれ!?」
「⋯⋯? ああ」
「折角一級冒険者になったのに!? 将来安泰なんですよ!? 引く手数多ですよ!?」
「一級冒険者に成ると言う目標を達成した今、ここに残る理由は無い。そう言う契約でもある」
「契約⋯⋯ですか⋯⋯?」
「ああ、辺境伯家との契約だ」
その言葉を聞いたロベルティーネは、またも声を上げそうになったが、途端にどこか納得したような表情を見せ、その後に優しくロベルを見つめた。
「新たにやるべきことを見つけたのですね」
「そう言うことだ」
ロベルがそう言うと同時に、丁度良くフランが帰ってきた。
「では改めて、報酬の方をご用意させて頂きます。今回の報酬は、大金貨一枚と金貨二枚になります。どうぞお納め下さい」
「⋯⋯ありがとう」
「⋯⋯⋯⋯全く、やっとお礼が言えるようになったの?」
「お前のお陰だ」
ロベルはそう言うと、報酬金と引き換えに冒険者証を置き、その場を去った。
フランもロベルを追う為、冒険者証を机へ置こうとしたが、その手をロベルティーネに掴まれた。
「フランさん、いえ、フラン」
「何」
「私は諦めていませんよ」
先程ロベルへ向けた聖母のような表情はどこへやら、彼女は小悪魔のような笑みを浮かべてそう言った。
「そう、でも関係ないから。私はもう、子供じゃない」
盗賊王の奇譚 金網滿 @Hirorukun
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