リスト14(No.097~No.108)脚本・シナリオ編

※このリストは、『小説の書き方本を108冊読んでわかったこと』のリストの一部です。本編は以下のURLをご参照ください。

https://kakuyomu.jp/works/16818093082304773813/episodes/16818093082680236247


No.097

『映画・テレビ シナリオの技術』

新井 一 著 1986 ダヴィッド社

感想:

 シナリオの書き方の本、あるいは小説の書き方の本でも、参照されることの多い本です。著者さんは、シナリオ・センターを設立された脚本家さんです。

 脚本を対象としたものですので、小説には直接参考にならないことも多々あります。ですが、文章による創作と言う点では同じはずだと思って本書を読んでみると、小説とも共通する点が多い、いやむしろほとんどがそうなんだ、と理解できます。

 例えばシーンとシーンをつないでシークェンスにしていく方法や、魅力的な人物を造形する方法などの点は、最終的に映像になるか文章になるかの違いはあれど、思考のプロセスとしてはかなりの部分共通していることがわかります。

 それから、小説の書き方で「カメラワークを意識して描写するべし」ということが語られる場合があります。そのことを考えても脚本のノウハウに目を通しておくことに積極的な意味はあるようです。例えば本書23ぺージからのカメラワークについての説明はわかりやすくかつ魅力的で、これを小説に取り入れるには……と考えさせられます。

 ちなみに、「マズローの欲望論」「葬式や結婚式」を同じ水準で脚本の要素とするなど、個性的な一面もあり、そういう部分でも楽しく読めます。

 小説を相対化して小説ならではの技法をあらためて考えたい方にも、フィクション全般に対する考え方と技法を押さえておきたい方にも、重要な本になるのではと思います。


No.098

『プロ作家・脚本家たちが使っている シナリオ・センター式 物語のつくり方』

新井 一樹 著 2023 日本実業出版社

感想:

 脚本家の養成学校であるシナリオ・センターの講師である著者さんによるシナリオの指南書です。「確固たる創作メソッドと、受講生のみなさんの腕に表現技術をつけるためのカリキュラムがある」(p.15)とのことで、それらを開陳してくださる一冊です。

 章立ては、物語の設定、登場人物のつくり方、物語の構成の立て方、シーンの描き方、物語の活かし方、と標準的です。本書が非常に説得的に感じるのは、柔らかな語り口調と整理された展開で読み手の頭にすんなり入ってくることと、指南の一つ一つに真摯に相対して説明しておられることが理由ではないかと思いました。

 例えば「起承転結」一つとっても、それぞれが物語においてどんな機能を果たしているかを説明します。「転」は、一般的に物語が大きく変わるところ、意外な展開をするところ、などと説明されることが多いですが、本書ではそれとは別次元の、物語における機能が説明されます。

 『ストーリーとドラマを分けて考える』、『物語は「何を描くか」×かける「どう書くか」である』とか『物語は人間をどう描くか、である』など、背骨となるような教えはどれもシンプルですが、今後の創作の根本を成すことになるようなものばかりです。個人的には、「才能とは何か」にこれだけきちんと答えていることに感銘を覚えました。

 創作全般に使える一冊になっています。


No.099

『だれでも書けるコメディシナリオ教室(DVD付)』

丸山 智子 著 2011 芸術新聞社

感想:

 『吉本新喜劇』をはじめとするコメディ劇を手掛けておられる脚本家さんの、実践的な本です。「教室」の名に違わず、基本を網羅していてかつ分かりやすい作りになっています。

 講(章)ごとにチェックポイントが書きだしてあったり、キャラクターをつくるためのキャラシートまでついていたりと、ユーザーフレンドリーな心配りを感じます。

 脚本のための本ですが、キャラやストーリーや場面を作るという点で、小説にも直接使える技術ばかりです。笑いをテーマにした小説やコメディパートの多い小説を書かれる方には特におすすめです。

 また同時に、心構えから業界の実情や裏話などのお仕事の話も詰まっていて、興味深く読めます。特に、筆者さんの創作に対する姿勢と探求心が印象的です。いろんなエピソードが語られ、こういう方の周りではいろいろなことが起るんだなーと思うのですが、常にどん欲にネタを求める姿勢がエピソードを引き付けているのかも知れません。

 腕時計を10個はめてるおじさんがご近所にいて、面白そうだから理由を聞いてみた、というエピソードが載っているのですが、私だったら怖くてとても話しかけられません。でも聞くのがこの方のすごいところなんですね(しかもその理由が秀逸でした)。


No.100

『いきなりドラマを面白くするシナリオ錬金術』

浅田 直亮 著 2009 彩流社

感想:

 シナリオ・センターの講師の方の著書で、コツや考え方を「~の術」と名付けて33紹介するという構成になっています。そうした構成、言葉遣いや、あるいは漫画形式の挿絵が入っていることから、コミカルで軽いタッチになっています。

 しかし、ひとつひとつの指南自体は説得的ですし、とにかくたくさん挙げられていますので全て気配りをしようとするとかなり骨のある作業になります。

 入門書というよりは、多少書き始めていて行き詰っている方などが傍らにおいでチェックリストとして用いたりするのがよいかもしれません。


No.101

『超簡単!売れるストーリー&キャラクターの作り方』

沼田 やすひろ 著 2011 講談社

感想:

 脚本家の著者さんによる、高度に分析的な一冊です。脚本を主な対象に据え、エンターテインメント作品に広く適用できそうな懐の広さを感じるとともに、全編渡って商品としての作品を強く意識していおられるところにも特徴があります。

 ストーリーをプロット(内容)とテリング(表現)の二軸に分け、それぞれ主に13段階フェイズとリマインダーという分析装置を用いて解説します。

 プロットの13段階フェイズは、ハリウッド三幕方式を踏まえたプロットの進め方で、良いプロットはその名の通り13の段階からなるという考え方です。

 テリング(表現)の方では、どのように書くかをほとんど"リマインダー"という概念で説明しています。このリマインダーという概念は非常に強力です。脚本や小説において、必要な表現は全てリマインダー概念で説明できてしまうほどです。ですので、ある意味では強引な議論にも見えますが、創作を志す者にとってわかりやすく、使いやすいことは確かです。是非実際にお読みただいてご判断いただきたいと思います。

 キャラクターは最後の第4部で取り上げられますが、全てのキャラクターは8つの役割に分類できるとしてあり、こちらもわりきった強力な概念での説明になっています。

 このように独自の概念が飛び交うのですが、どれもご自身の豊富な経験や先人たちの教えを踏襲したもので、強力で包括的な指南になっています。

 既存の有名作品の分析も豊富に掲載されているので実践的に学ぶことができます。

全くの初心者だけでなく、いやむしろ行き詰まっている中級者やデビュー後なんとなくヒット作に恵まれないプロの方にこそ、役に立ちそうな内容だという印象を持ちました。


No.102

『SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術』

ブレイク・スナイダー 著 菊池 淳子訳 2010 フィルムアート社

感想:

 ハリウッド映画業界の脚本家による、強力でわかりやすい一冊です。主人公を魅力的に見せる法則、三幕構成を元に15の場面で構成されたビート・シート、脚本を動かす黄金のルール、いずれも脚本のみならず小説執筆をはじめとした作品全般に即戦力として使えるものばかりです。

 タイトルにもなっている"Save the cat"だけでなく、"プールで泳ぐローマ教皇"や" 原始人でもわかるか?"など、印象的でわかりやすいイメージによって重要なノウハウが示されます。

 どちらかというと、こうした本を何冊も精読されている方よりは、「脚本とかストーリーに法則や型なんてあるの?」という初心者の方に読んでいただいて、是非ショックを受けていただきたいです。

 それから、日本の作家(特に職人肌の方)が書かれたものとはノリが違って、華やかだけれども生き馬の目を抜くハリウッド映画業界の喧騒が聞こえてくるような、ゴキゲンでフランク、だけどどこかシニカルな語り口で、読者の心をグッとつかんだまま進みます。やはり生粋のエンターテイナーなんでしょうね。


No.103

『面白い物語の法則〈上〉〈下〉 強い物語とキャラを作れるハリウッド式創作術』

クリストファー・ボグラー、デイビッド・マッケナ 著 2022 ‎ KADOKAWA(角川新書)

感想:

 ハリウッドの脚本家ボグラー&マッケナによる脚本創作の教本です。『物語の法則 強い物語とキャラを作れるハリウッド式創作術』の改題改編とのことです。

 この本自体がテクニカルライティングに則って書かれており、章の最初に結論がまとめて書かれるなど、読みやすいにもほどがあります。

 中身はというと、大きなストーリーとプロットの組み方、キャラクターの設定・配置の仕方が大半です。脚本指南の本に頻出のジョセフ・キャンベルの『英雄の旅』やウラジミール・プロップの物語の機能とキャラクターの類型に依拠して、それらを組み合わせ、改編して独自のツールを作成し、物語を紡ぎ出す方法を提案します。

 アリストテレス以来の伝統やフォルマリスムの研究を援用して、包括的かつ分析的に脚本を作り上げるその手法は、例えば「小説は魂の叫びだ! 小手先の技術ではない!」とお考えの方がいらっしゃるとしたら、あまりにも合理主義的に映るかもしれません。それほど、この「ハリウッド式」は強力な技術です。

 第26章の最後に、こうした技術がきちんと適用されているかのチェックリストが並びます。それは、気を抜いて書かれたストーリーを戒める石板のようでもあり、遠足へ出るための持ち物チェックリストのようでもあり、胸が躍ります。



No.104

『物語のつむぎ方入門<プロット>をおもしろくする25の方法』

エイミー・ジョーンズ 著、駒田 曜 訳 2022 創元社(アルケミスト双書)

感想:

 アリストテレスから始まりトドロフ、プロップといった物語論の知見をコンパクトにまとめた、文芸志向のプロット論の要約といったところです。ひとつの話題について見開きで解説されるなど、非常にまとまっているのでとてもわかりやすいです

 用語や基礎知識を説明するだけで精一杯なので実例などはほとんどありません。ハリー・ポッターと炎のゴブレットのプロット表が紹介されていました。参考になる方にはなるのではないでしょうか。


No.105

『工学的ストーリー入門』

ラリー・ブルックス著、シカ・マッケンジー 訳 2018 フィルムアート社

感想:

 原題はStory Engineeringです。

 著者さんは小説家でもあり編集者でもあるという方です。創作のハウツー本が芸術的な側面を取り上げたものばかりであることに問題を感じておられ、「工学的な面」(p.8)を理論的に記述するのが本書の狙いです。

 ストーリーには「六つのコア要素」があり、これをきちんと理解して使いこなせば、「包括的に秩序立ててストーリーを作ることができる」(p.20)し、「六つの要素をすべてプロのレベルに引き上げれば、出版社との契約も現実味を帯びてくる。」(p.19)のだそうです。

 小説を主な対象にしているのですが、むしろ脚本術の書籍と内容が近いように思います。三幕構成を下敷きにした「四つの箱」や、シーン一つ一つに使命を与えてそれを積み重ねていく重要性、あるいはプロットポイント、ビートシートといった専門用語から、そう感じました。

 一方、脚本の専門家の著書にはあまりない「文体」について取り上げている点は珍しいと思います。

 全体像からシームレスにシーンやカットまで概観し、かつ一つ一つの「要素」をかなり丁寧に説明しているので、何度も読み返して自分の技術に変えていくべき一冊だと思います。


No.106

『「感情」から書く脚本術 心を奪って釘づけにする物語の書き方』

カール・イグレシアス 著 島内 哲朗 訳 2016 フィルムアート社

感想:

 原題は”Writing for emotional impact :Advanced Dramatic Techniques to Attract, Engage and Fascinate the Reader from Beginning to End”。

 基本的にはハリウッド映画業界の知見に基づく脚本術の本です。テーマ、キャラクター、構成、場面など、よくある章立てに沿って進みます。タッチも、明るくユーモラスに、しかし心構えに関してはシビアにと、この類の翻訳本によくあるタイプです。

 しかし決して凡庸というわけではありません。本書は、「本当に大事なこと。それは脚本を読む人に感情的な体験を提供するということなのだ」(p.15)と言い切ります。脚本を読む人、映画を見る人の感情を動かす脚本や映画こそがすぐれたものだという考えに立脚しうえで、それを実現するための技術が展開されます。

 創作術というものをこの『感情を動かす』という観点からとらえなおすことで、創作における各要素がなぜ重要なのかが浮き彫りになっていきます。例えば、創作にとってキャラクター造形が重要なのは当然ですが、それは観客の感情を動かす直接的な要素だからであり、キャラクターを通して我々は感情を動かし、映画に釘付けになっているから、ということがよくわかります。

 ほかの要素についても、感情を動かすことに資するものとして解説がなされます。ただうわべだけ盛り上げることを意味するのではありません。例えば、ト書きを書く際に形容詞を避けることを推奨します。代わりに力強い動詞を使うことで、動きの意味を解釈させることが狙いです。

 こうした、『感情を動かす』という目的のために技術を積み重ねていく姿勢は、小説のノウハウとしても十分使えると思いました。


No.107

『物語の作り方 ガルシア=マルケスのシナリオ教室』

ガルシア=マルケス著 木村 榮一 訳

感想:

 キューバの映画学校で、ガルシア=マルケスと脚本家やそのタマゴたちがドラマ用の脚本を検討する様子を延々と記した一冊です。より正確には『お話をどう語るか』と『語るという幸せなマニア』という二冊を一冊にまとめて日本語で刊行したもののようです。

 参加者の一人がストーリーを語り、他の人たちが「ここはこうした方がいい」「ここはよくわからなかった」などと自由に意見を述べていきます。ガルシア=マルケスも他の人たちと基本的に同じ立場で口を挟んでいます。

 なるほどと思うような意見から突然ストーリー全体の様相を変えるような意見まで様々な意見が飛び交い、ストーリー作りの現場を臨場感たっぷりに伝えてくれます。「ここで主人公はバスにのる」「いや、私は列車の方がいいと思う」なんて、些細(に思えるよう)なことにずっとこだわっていたりしています。

 あるストーリーを検討する会で、議論がだいぶ深まった頃、そのストーリーの提案者が突然「実はこの話はコメディーにしたいんです」と言い出し、ガルシア=マルケスが「なんでそれを早く言わないんだ!」と慌てる一幕があったりして、人を書くのも人間なんだなと思わせます。

 全体を通して、参加者の自由発言がつづられていますので、いわゆる指南書の形式にはなっていません。ですから直接的にそう言ったものを期待すると辛いと思います。

 あのガルシア=マルケスもこんな風に苦労してストーリーを作り上げていたんだな、と思うと勇気と彼に対する親近感が沸くと思いますので、その用途には是非どうぞ。


No.108

『詩学』

アリストテレス著 三浦洋 訳 2019 光文社(光文社古典新訳文庫)

感想:

 107冊の小説の書き方本を読んだうえで『詩学』を読むと、創作における論点が多数挙げられているのに驚きます。

 まず本書は、(叙事詩や悲劇、喜劇なども含め)詩作とは模倣である、というところからスタートします。ジャンルごとに模倣の対象や素材や方式が異なるとして、その説明が続きます。また、なぜ詩作が存在するのかという根源的な問いに対して、1.人間は模倣が好きだから、2.韻律を含むリズムも好きだから、と答えます。

 こうした議論は素朴ではありますが、107冊に書かれていたことと併せて考えると、本質をついていることがわかります。「模倣」というキーワードは創作術では頻出であり、おそらくは模倣なくして創作はありえないでしょう。

 考えてみると、創作に限らず模倣は少なくとも人間のかなり本質的なところにあり、食事など生活、特に社会生活は模倣なくしてあり得ません。ただ議論としてはまだ雑なので、生物的な模倣と芸術的な模倣は同じなのか、もしくはどういう関係にあるのか、あるいは模倣が本質なのか、それとも模倣によって本質的な何かを充たしているのか、などを考える必要がありそうです。

 続いて、悲喜劇を題材にストーリーの構成要素や優れたストーリーの条件が検討されます。悲劇とは一定の大きさをもちながら全体としてまとまりを持った行為の模倣であるとし、全体とは、「始めと中間と終わりを持つもの」としています。そして、その展開は説得的でなければならない、などの主張が展開されます。このあたりは、シド・フィールドをはじめハリウッドで重宝されている三幕構成に通じる考え方であると理解しました。登場人物に変化が無ければならないなど、現代でも全く同様に通じる作劇法が紹介されます。

 展開として「逆転」や「再認」などが説明されますが、この時代にこのような反省的な検討がなされていることに驚きました。

 また、悲劇は「憐れみ」「怖れ」の感情を呼び起こす出来事の模倣であるとしています。感情は一定数の作家が非常に重視しているもので、例えばヒッチコックも、映画とは観客の感情を操作するもの、という趣旨の発言が記録されています。

というわけできりがありませんが、アリストテレス『詩学』には現代まで脈々と続いている作劇上の議論の多くが詰まっています。

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小説の書き方本を108冊読んでわかったこと 杉村雪良 @yukiyoshisugimura

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