ある町の怪異—ラスボス退治—

ゆかり

三度目の浅緋

「今回で決着付けてやる」

 浅緋あさひは尻込みする僕に無理やり運転させて、僕の実家のある町にやって来た。彼女がこの町に来るのはこれで三度目。

 一回目は僕の家に長年住みついていた「たたみ小僧」を捉まえに。二回目は人間の健康な歯を抜く妖怪「歯抜きじじい」を懲らしめに。

 浅緋は「たたみ小僧」を捕らえに来た時に、この町の異常さに気付いたようだ。


「でも、畳の妖怪は昔から居たんだよ」

 そう言う僕を鼻で笑って浅緋は言った。

「昔から居た妖怪達は可愛い奴らばかりじゃん。人間とは持ちつ持たれつだし。歯抜きじじいだって歯を一本持ってくだけで命までは狙わないじゃん? ただ、普通はあんな大胆なやり方しない筈。町の妖気も異常に濃いし」

蠱読こどく? だっけ? 誰かがそれをやったせい?」

「それは間違いない。でも、そっちは解決済みだよ。馴染みの妖怪を召喚しといた」

「馴染みの妖怪? そんなのが居るの?」

「いるさ。たたみ小僧だってそうじゃん。今回は妖怪『企画荒し』のが毒の無効化に動いてる。たたみ小僧達も手伝いに行ってるよ」

「じゃあ、問題解決って事?」

「いや、既に悪質な妖怪が何匹か町に潜んでる。奴らを退治しないとまだまだ死人が出る」

「死人って……。それ、滅茶滅茶ヤバいよね? ど、どうしよう。え? まだまだって、既に犠牲者が居るって事?」


 オタオタする僕に浅緋はある動画を見せた。マンホールに大量の殺虫剤を放り込んだ二人の若者の内の一人がマンホールに引きずり込まれる映像だ。

「えっ? なに? これフェィクだよね? これ、引きずり込んでるのって虫の足に見えるけど。こんな大きな虫が居たら今頃大騒ぎになってるはず……」

「だからそこじゃん、亮介。このデカい虫も異常だけど、むしろ取り合わない警察のほうがヤバいじゃん」

「フェイクだからじゃないの?」

「これは動画をとってたヤツがアタシに託したんだ。警察で爆笑されたって。でも実際に行方不明になってるのに、爆笑で済ます警察って変じゃん?」

「確かに」



「う、うわ。うわ。た、助けて、助けて。ぎいやぁぁぁぁ!」


 数時間後、僕は馬鹿デカい二匹のあぶに狙われていた。しゃがみこんで必死に近くの机にしがみつく。虻は僕の背中を掴み、持ち上げようとする。持ち上げられたら最後、そのまま宙に運ばれ……。その後はどんな目に遭うか考えただけで恐ろしい。落とされるか食われるか。いずれにせよ命は無い。


 浅緋にお願いされて(強制的に)件の駐在所を訪ね、動画を見せて警官を問い詰める羽目になった僕は、でも問い詰めるなんて出来ないから

「これ、調べたんですけどフェイクじゃないんですよ」

 作り笑顔で控えめにそう言ってみた。

 言ってみただけなのに、その瞬間に二人の警察官の背中がパックリと割れ巨大な虻が現れたのだ。もうお終いだ。短い生涯だった……


 そう観念しかけた時、僕の頼もしき素敵な彼女、浅緋が現れた。バズーカ砲のような物を抱えている。

 僕に当たりませんようにと祈る中、発射されたのは網。網は見事に二匹の巨大な虻を捕らえ、虻たちは見る見る干からびていく。

「こいつらが黒幕だよ。もうこれでマンホールの虫達も元の大きさに戻ってるはず」

「浅緋の仕事って妖怪退治?」

「んなわけないじゃん。アタシ学生だよ。妖怪退治は単なる趣味っ」


 こうして僕の町は平和を取り戻したけれど、僕の行く末にも平和はあるんだろうか? そんな気がかりは残った。



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