僕の選択と結末
逃避行が始まる。
「マリ」の用意周到な準備のおかげで僕たちはすぐに家を出る事ができた。僕が住んでいる場所は東京都の六本木の高層マンションで職場の「フューチャー・コーポレーション」からは徒歩5分もかからない距離だった。
いつもは人と共生している自動人形で足の踏み場もないほどの街なのに今日だけは人1人いなかった。閑散とした街に異常を感じる僕と「マリ」。
とにかく職場に行って……事情を……「お姉ちゃん、それはマズイです。「親切なあの方」は「フューチャー・コーポレーション」の社外取締役だったはずです」「確かにそうだ。僕はなんでなんでこんな簡単なことに気付かなかったんだ……」
僕は判断力がかなり衰えていることに気付いた。僕が僕じゃなくなっているような感覚だよ。絶望感に苛まれる僕に「マリ」が言う。「ここで落ち込んでいる暇はありません。お姉ちゃんは私の言うことに従ってください。ここは車で田舎に逃げましょう。都会は隠れる場所がありません」僕は「マリ」の言葉を疑うこともなく、提案に乗ることにした。
僕と「マリ」は車で東京の奥多摩に向かった。車は「完全自動運転」のオート自動車ではなく今時珍しい「オートマ式」の自分で運転するタイプだった。僕はどちらでもいいと言ったのだが「マリ」が自分で運転した方が追われた時に撒きやすいといって聞かなかった。
車は自動人形の特許で儲かった莫大な財産でコレクションのように買い漁っていたので何十台も持っていたからフェラーリの超高級車で逃げることにしたよ。天気は曇りだったけど雨は降らない予報だったので、オープンカータイプにした。「マリ」と出かける時に好んで乗っていた車だった。
車の運転は「マリ」がしてくれた。運転しながら「マリ」が初めて生まれた時のことや僕の覚えている限りの子供の頃の話を取り留めもなく話していた。お気に入りの公園によく行ったことやどんな風に愛し合ったか、そんなことまで熱く語りながらお互いにドライブを楽しみながら、幸せな時間を過ごした。
高速に乗って楽しく走っていたが「マリ」が急に黙り込んでしまった。そして通り過ぎるはずのSAに急にドリフトして滑り込んだ。僕はシートベルトはもちろんしていたが「うわっ!!」と驚きの声を出した。「マリ」は無言で駐車場に停めると、僕にベッタリと抱きついて離れなかった。
「急に甘えてどうしたんだい? それにSAはさっき行っただろ?」「「マリ様」が変われと……大事な話があると……」「大事な話……? それにここは家じゃ無いじゃないか。妹はいないはずじゃ?」
「どうやら「マリ」はもう意識を保つのが限界のようです。もう「マリ様」と「親切なあの方」の……教えに染まっているようなのです」
僕が困惑していると「お姉ちゃん、私が話してあげるね?」と口調が妹のマリに変わった。ああ、もう僕の愛した「マリ」は飲み込まれているんだ……なんの抵抗もなく口調が切り替わってる。僕はもう覚悟を決めて妹のマリの話を聞くことにした。
「まず私がなんで「お姉ちゃん」って読んでるかわかる?」「それはお前が冗談でよく言ってただろ。「お兄ちゃん」じゃなくて「お姉ちゃん」が欲しかったって」「そうだね……覚えててくれたんだ。でもね、それだけじゃないよ」「じゃあ……なんなんだ?」
僕はゴクリと喉を鳴らして答えを待った。だがその理由は予想の斜め上を行ったものであった。「おねえ、いや今だけは「お兄ちゃん」って呼んであげる。お兄ちゃんは確かに「男」として生まれたけど、魂の形は「女」なの。「親切なあの方」がお兄ちゃんに初めて会った時に見抜いて教えてくれたの」
頭が真っ白になった。妹の、お前が言っていることがわからない。「何を言ってるんだ、僕は男だ!!」「いや、違うわ。お姉ちゃんはお人形遊びが大好きな女の子なの。だってあんなにお人形遊びに夢中になってくれたでしょ?」
「お前の言ってることは訳がわからない!!」僕は本気で怯えた。だが妹の「マリ」の言葉に納得している自分がいることに気付いていた。いやこれはまさか……納得してるんじゃない……「洗脳」だ…… 感情さえ操られているのか……?
僕はいつから妹のマリに操られて生きてきたんだ? 記憶が曖昧な理由は本当はなんなんだ……?
妹の、いやどっちの「マリ」かもう判別が付かなかった。昔の「マリ」がしていた口を尖らせて、甘えた顔をする「マリ」は狂気を帯びた目をしていた。
「私は、幼い頃からお姉ちゃんが欲しくてね……でね、「親切なあの方」の言葉で思ったの。ああ、「お姉ちゃん」はやっぱり「お姉ちゃん」なんだって、そしてそのお姉ちゃんを思いっきり愛玩したいなって思ったの」
「どう言うことかさっぱりわからない」「お兄ちゃんと呼んでいた人が実は理想の「お姉ちゃん」だったってことをわかったのですよ。「親切なあの方」のおかげです。私はお姉ちゃんに意地悪をされて孤独でした。私を妹としか見てくれない意地悪なお兄ちゃんはいらないのです。本当のお姉ちゃんの愛が欲しいんですよ」
やっぱり意味がわからないが、「親切なあの方」が妹の「マリ」に何かしたのかもしれない。そして口調が……混ざっている。
もう視界がグチャグチャで涙が頬を伝っているがまだ聞かなければいけないことがある。「親切なあの方」ってのは何者なんだ?僕は声帯を震わせながら聞いた。
「「親切なあの方」は表の顔は製薬会社のトップ。そして裏の顔はこの世界の神なのです!!」「マリ」は陶酔しきった表情で言い切った。唖然とした僕は昔、ネットニュースで見たことが本当だと言うことを今更知ったんだ。
「マリ」がさらに続ける。「偉大で親切なあの方は有り余る金を自ら人体実験にかけ、苦難の末、ついに手に入れたのです! 未来を予知する能力を!」
普段だったら、僕は馬鹿馬鹿しいと切り捨てる話だったが、なぜかそう言えなかった。僕たちがいる孤児院に寄付したのはなぜか、星の数ほどある孤児院から僕たちの所に視察に来た理由、僕と「マリ」が住んでいた家をくれた理由、「マリ」の遺言の内容、他にも理由をあげたらキリがないが、僕に自動人形を開発させるように仕向けたのが「親切なあの方」だとしたら、予知能力を持っているという話も馬鹿に出来ない……
「魂がどうとかいう話はなんだよ……」「あれははるか先の未来で魂は物質であり、構成までわかることを予知したそうよ。だから魂を保全する特殊な断熱材や木材の家を作れたし、「成体金属」は自動人形に魂を入れるための物質でできているんです」
もはやオカルト研究所もびっくりな話だが……起こった出来事が状況証拠になっているのは皮肉だと思う。
僕はしばらく無言で考え続けるのであった。「マリ」は胸元で甘えながらも狂気に満ちた笑顔で僕を見つめていたよ。
「もうわかったよ、わかった。まったく信じられないけど状況証拠はある。だけどそんなことはどうでもいい。さっきまでの「マリ」はまだ居るのか?」「マリ」を胸元から引き剥がして言ったよ。
「お姉ちゃんの愛した「マリ」と妹だった「マリ」が本当に違うと思ってるの?」「違う、違うよ!お前と「マリ」の仕草は全く違った! 性格も!」「そうだね、でもそう見えるように妹のマリが演じていたとは思わないの?」
「それは……そう見える部分はあったさ。でもな、女としての僕を求めているお前と男としての僕を受け入れてくれた「マリ」は別物だ!」僕は激しい口調で怒鳴った。
「ふーん、つまんないの……ちゃんとわかってるんだね」「なんだ、その言い草は!」「じゃあなんでお姉ちゃんは最初は妹の「マリ」を自動人形なんて作ってまで求めたの?」その一言に僕は怯んだ。そうだった、初めは妹の「マリ」を愛していたと自覚して、自動人形を作ったんだった……
「でも、妹のマリよりも新しく生まれた「マリ」を愛してしまった。そう言うことじゃないの?」「それは……」僕は図星を突かれた気分だった。だけど……「これって浮気だよね? うわー最低な「お兄ちゃん」」マリはニヤニヤしながら言ってくる。
「やっぱり「お兄ちゃん」は意地悪で身勝手で最低。でもね? 本当に心の底から「お姉ちゃん」になるって約束するなら愛した「マリ」を残してあげる」悪魔のような取引に心が動いてしまう僕がいた。
それに……と耳元で囁く「マリ」。「私のためなら何でもしてくれると……仰いましたよね?」その一言は「マリ」のものだった。ふーと吐息を耳に吹きかけながら僕の心を揺さぶる。これは愛し合っていた時の「マリ」の意地悪な癖だった。
僕はもう「お姉ちゃん」になるしか選択肢がなかったんだ……それが愛した「マリ」を救う道だと信じて、妹の「マリ」の提案を受け入れた。この時僕は、いや「私」は本当にお姉ちゃんになったのであった。この時、私の未来は決まったんだ。妹のマリと「マリ」に愛玩されて生きる未来が確定したの。
私は冷たい金属の台に横たわっていた。「マリ」が優しく微笑みながら私の手を取り、穏やかな声で囁いた。「大丈夫です、痛みは感じません。あなたは新しい体で目覚めるのです。」
麻酔のような心地良い眠気が奈緒を包み込む。私は一瞬、過去の記憶を振り返った。妹のマリとの思い出、そして現在の愛するマリとの時間。しかし、その全てが薄れていく。
次第に私の身体が重くなり、視界がぼやける。心臓の鼓動が次第に鈍くなり、最後には完全に静止する。「これが終わりなのか……」私は薄れる意識の中で思った。
だが、それは終わりではなかった。私の意識が再び浮上した時、新たな感覚に気づいた。肌の感触が金属のように冷たく、内側から響く機械音が聞こえる。目を開けたが、視界は以前とは異なっていた。すべてがクリアで、鮮明に見える。
「お姉ちゃん、おはようございます」「マリ」の声が私の耳に届く。「マリ」の顔には喜びが溢れていた。私は口を開こうとしたが、声が機械的でぎこちなかった。「これが……新しい私なのか……」
私は手を上げ、その動きを感じた。金属製の指が、光を反射して輝いている。心の中で微かな抵抗が生まれるが、それはすぐに愛情と受容に変わる。新しい体に慣れることを決意した。
「大好きだよ、2人のマリ」ついに言葉を発することができた。マリはその言葉を聞いて、私をしっかりと抱きしめた。「「私」も愛しています、お姉ちゃん」
私は新たな存在として、2人の「マリ」の腕の中で穏やかな幸福を感じながら、新しい未来を受け入れるのであった。
僕はいや、私は日記を読み終えて驚愕した。「こんなことがあったのか……ものすごく記憶が鮮明になったよ」「どうでしたか? 「マリ」と「お姉ちゃん」の事が大好きなマリはここにいるのですよ?」「う、うん。嬉しいわ……」「さあ、オイルを早く飲んで、お召し物を変えたら、今日も愛し合いましょう?」
私は口元を尖らせて、顎を引いて目をつぶる「マリ」に優しく口付けした。それが妹のマリと交わした契約であり、愛した「マリ」を守るための方便だった。だけど私はもう、完全に女の心になっていたし、彼女たちに支配されて2人の「マリ」を愛する喜びを知ってしまった。
「マリ」らしく振る舞う妹の意思に気づいていたし、狂った瞳の輝きは今でもわかる。でもそれでもいいと思うくらい私も狂ってしまっていた。もう、どちらのマリでもいい。私は正気ではいられないのかもしれない。私はその後、お人形さんのように髪型や着せ替えをされた後、自動人形の体で狂ったように愛し合った。
それは「マリ」との大好きだった大人の愛や妹の「マリ」との激しく燃え上がる愛を感じたの。でもね、彼女たちに永遠に愛されていく生活って幸せなんだろうか? 私は心の中でそう思いながらも人間だった頃の「肉欲」に流されて、その問いを考えることをやめた。
ああ、また「私」の記憶が溶けていく。
『本当に悪趣味ですね、マリ様は。』『それをわかってやっている「マリ」も同罪でしょ?だって仕方ないじゃない。記憶を消さないと「お姉ちゃん」は正気でいられないし、また記憶を取り戻させて、その度に私たちに依存して支配されていく「お姉ちゃん」が一番可愛いんだから』『確かにそうですね。私もここに存在し、「お姉ちゃん」と愛し合えるだけで幸せですから』
妹のマリは「マリ」さえも調教し、手懐けた。妹のマリには元々人を操り、洗脳していく技術を持っていた。もはや「超能力」と言っても過言ではないものだ。妹のマリはおそらく人間の能力を高める人体実験を受けたに違いない。それをしたのは「親切なあの方」だそうだ。
「親切なあの方」は自動人形を人類に広め、手放せなくなくなったところで、私が今されているように人類を調教して愛玩しているそうだ。彼の教団の信念は「愛が人類を救う」らしい。
実際人類同士の戦争は無くなったし、自動人形たちに囲まれて、人類は幸せそうに暮らしている。私は……それについて、どう思うかなんて考えられないわ。私自身も……幸せを……感じているはずだから。
もはや人類は家畜と言っても過言ではない。全てはあの方の功績だ!! 私はその礎になれて嬉しい。あれ、何で私まで「あの方」って言ってるの? うう、頭が痛い。寝よう。明日になれば良くなるわ。
「お姉ちゃん、起きてください。朝ご飯のオイルの準備ができましたよ?」「うう、オイルは嫌だ、オイルは」僕は目を覚ましたよ。あれ、何でお姉ちゃんって呼ばれて……?
自動人形にTSさせられて愛玩される人形になった僕の理由 マロン64 @bagabon64
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