#065 「もげねぇよ」

「いやぁ、楽しませてもらったよ。まさかアンタから恋バナが聞けるとはね」


 俺がリボースⅢに降りてからエリーカと出会い、今に至るまでの話を一通り聞いた女船長は満足げな様子でそう言ってグラスの酒を呷った。


「これ恋バナか……?」

「男女が劇的な出会いを経てらぶらぶちゅっちゅしたらもうそれは恋バナだろ」


 内心で「お前がらぶらぶちゅっちゅとか言うのキッッッッッッッツ!」と思ったが、口に出すと戦争になりそうなので賢明な俺は黙っておいた。何よりうちの嫁さん達も楽しそうだから、水を差すこともあるまい。この船、船長含めて全員が女性だから、こういう話が凄くウケるんだよな。話している間にどんどんギャラリーが集まってきたし。


「しかし、アンタ思ってたよりも紳士だよねぇ……見た目はそんななのにさ」

「見た目がこんなで悪かったな。どうせ俺はまだ見ぬ嫁さんを求めて単身惑星降下を敢行するメルヒェン野郎だよ」

「悪かったって。実際にしっかり嫁さんを見つけてるアンタのことをもうメルヒェン野郎だなんて呼ばないよ、不死身イモータル。いや、今は顔無しフェイスレスって呼んだほうが良いのかな?」

「どっちでもいいし、俺にはちゃんとグレンって名前もあるんだがな……さぁ、話は終わりだ。とっとと商談を済ませよう」

「せっかちだねぇ……まぁ面白い話を聞かせてもらったから、これくらいで許してやるか」


 女船長がそう言って手を振ると、大型のホロスクリーンが立ち上がり、俺達がこの船へと運んできた物品の目録が表示された。

 主な品目はうちの農場で収穫した野菜、採集した野イチゴなどの果物、狩猟で得たヘキサディアの肉や、その皮革や角などの狩猟成果物、他には木材や植物素材を加工して作った彫刻や籠などの美術品。他には交易で得た魚やその加工品、少量だが茶などの嗜好品、他には未精製の原始的な砂糖や他のコロニーで栽培された香辛料などだ。


「食料関係は全部買い取るよ。特に肉は良いね。チェックしてみたけど、有害物質なんかの蓄積も殆ど無いし、野生のものにしてはかなりクリーンだ。これなら売れるよ。あと、民芸品はもう少し芸術性が高いもののほうが良いね。一応買い取るけど、これじゃあまり高値はつかないかな。美しさ重視で」

「作物はどうだ?」

「質は悪くないけど、良くもないね。品目としてもありふれているものだし、商品作物としては弱いな。最近人気の品種についてデータを送っておこうか?」

「有効に使えるかどうかは微妙だがな。その作物を育成するための種や苗、育成用のデータなんかが無いとどうにもならん」

「それもそうか。次の取引までにその辺りを取り揃えておくよ。勿論ただじゃないけど」

「それは当然だな。ああ、今回の取引内容はすぐにデータでくれ。今後の生産活動の参考にする」


 世の中どんなサービスにも値段がついているものだ。対価の発生しないサービスなんてものはあまり信用できるものじゃない。タダだったら提供されたものに何か不具合があっても文句も言いづらいしな。


「他に何か用意しておいた方が良いものはあるかい? 次回の取引までに用意しておくけど」

「あー……まぁ、ある。あるんだがな」


 腕を組み、天井を見上げる。このタイミングで言いづらいなぁ。エリーカ達との出会いの話をしてから言うのしんどいなぁ。あー、わかったわかった。わかったから反物質コアの稼働率を無駄に上げるんじゃない。


「旧式、というか試作型の陽電子頭脳を搭載可能なセクサロイドの筐体を一体用意して欲しい」

「……なんて?」

「セクサロイドを一体用意してくれ。筐体とメンテナンス施設もセットで。こっちで用意した陽電子頭脳を搭載したいから、規格もそれに応じたものか、合致するように改造して用意して欲しい」


 俺の言葉を頭の中で反芻しているのか、女船長は胸の前で腕を組み、暫く天井を見上げてからエリーカに視線を向けた。


「夜の方、上手くいってないとか?」

「そういうわけではなくてですね……」


 エリーカが少し顔を赤くしながら苦笑いを浮かべる。俺じゃなくてエリーカに聞くあたりいやらしいというかなんというか……まぁ、気持ちはわかるがな。


「あー、誤解するのはわかるが、ちょっと事情があってな。つまりアレだ、はぐれの機械知性を拾ったと認識してくれ。実際にはもうちょっと事情が複雑なんだが、とにかくその試作型の陽電子頭脳を搭載できる筐体が要るんだよ。敢えてセクサロイドを選んだのはそいつの趣味だ」


 俺の発言に反物質コアが抗議でもするかのようにきゅいーんと稼働効率を上昇させる。だがな、実際問題そうだろうが? としか言えない。どうせ可愛さの欠片もない戦闘ボットの筐体に叩き込んだらそれはそれで絶対に抗議するだろう、お前は。顔は思い出せないが、怒る様が目に浮かぶようだ。


「つまりまだ増える……ッテコト!?」

「そうだな。そうなるんだろうな」


 口元を押さえてオーバーリアクションに驚愕する女船長を見てうんざりとした気持ちになる。彼女のクルー達もヒソヒソと何か話し合ってるし……正直居心地が悪い。


「え? つまり何? 美人シスターに爆乳牛娘にちんまいアリ娘にジト目触手娘に加えて真っ白系合法ロリもいるのに、更にはぐれ機械知性セクサロイドまで加わる、ってこと? 大丈夫? ち◯ち◯もげない?」

「◯ん◯ん言うな。もげねぇよ」

「だって毎日一人ずつ相手にしたら週六でしょ? 枯れない? 良い精力剤も用意しとく?」

「今のところは問題ないな」

「えぇ……強……ナニも不死身イモータルなわけ?」


 うるせぇよ。放っておけ。


「まぁ、事情はわかったけど……デザインとかはどうするのさ? 私に選ばせるわけ? 美少年にしていい?」

「良いわけあるか。ちゃんとガイノイドにしろ」


 こいつの趣味全開で作ったモノと濃厚に絡み合うのは絶対に御免だ。そもそも俺にそっちの趣味はない。


「そう? それじゃあ今からあんたの性癖大公開ショーでもする? セクサロイドのメーカーはいくつかあるけど、どこも情報端末で簡単かつ詳細に見た目をカスタマイズして、製造データに反映させるサービスがあるわよ」

「勘弁してくれ……というか詳しいな?」

「……」


 女船長が目を逸らして口笛を吹く。吹けてないが。こいつ、さてはヘビーユーザーか? こいつの部屋は覗いたらとんでもないものを目にすることになりそうだな。


「とりあえず、アプリだけ貰っておく。あとはなんとか本人と相談しつつ決めてみるさ。後日データを送るから、それを基に発注してくれ」

「はいはい……今作っても良いけど?」

「お前の利用履歴も全部公開してくれるならこの場で作ってやるよ」

「……」


 俺の反撃に女船長は沈黙した。俺の勝ちだな。もう二度と逆らうなよ。

 相談に関してはできないこともない。やつは夢の中以外では話すことはできないが、反物質コアの稼働状態である程度コミュニケーションを取ることはできる。普段はやかましくこちらに干渉してくることはないが、自分の筐体のことともなれば積極的に意思を表明してくるだろう。


「で、予算は足りるわけ?」

「俺の手持ちと今回の売却分、それと引き渡しまでに用意する品で十分足りるだろう」

「なら良いけどね。頑張って稼がせて頂戴ね」

「おう、大事な金蔓様だからな。今後は丁重に扱えよ」


 俺がそう言うと、女船長は「そうなってくれると嬉しいね」と言って肩を竦めた。見てろよこいつ。今に驚くくらい稼いでやるからな。


「とりあえず、そっちの積み荷の目録も見せてくれ」

「うん? なにか買っていくわけ?」

「折角お空の上まではるばる取引に来たんだ。嫁さん達に何か買ってやるくらいの甲斐性は持ち合わせてる」


 俺がそう言うと、女船長はきょとんとした後、腹を抱えて笑い始めた。そんなに面白いか? こいつめ。笑った分は買い取りだけじゃなく買い物の方でもしっかりサービスしてもらうからな。


以下あとがき


フェイスレスの更新は今日でまたストップ! 原稿が! 予定がキッチキチでアカンしぬぅ!_(:3」∠)_

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