知らぬが仏
その日、ニュース番組はひとつの報道で持ちきりだった。
【航空機が姫路駅に墜落 停車中の新幹線巻き込み1097人死亡】
11月17日、早朝。未曽有の大事故だった。
その旅客機は名古屋空港からベトナムに向かう最中、関西上空で突如トラブルが生じて制御不能となった。すべてのコントロール手段を失った機体は、不時着することも叶わず、成す術なく市街地へと墜落した。その場所は不幸にも人が多く集まる姫路駅の真上で、九州に向かう途中に停車していた新幹線も、連鎖して爆発事故を起こした。その機体および車両の残骸が爆風で吹き飛び、付近の住宅街に降り注いだ。それは二次的に火災やガス爆発等を起こし、事故の被害は想像を絶するものであった。
飛行機の乗客乗員、新幹線の乗客乗員、駅にいた人々、そして周辺の住宅街の住民たち。幼い子供を含む大勢の人を巻き込んだ大規模な航空事故として世界中で報道され、歴史に刻まれることとなった。
そして後日、奇跡的に回収された航空機内のレコーダーの音声が公開された。そこに録音されていた、ある乗客が叫んだ言葉が、他の乗客の叫び声や咽び声とはまったく異質で奇妙だと話題になった。
《――――そんな無茶苦茶な『お告げ』で分かるかよ!!》
***
死期を知った者がいた。その者は迫り来るその日に怯えて過ごした。
死因を知った者がいた。その者は死を避けるために行動を選んだ。
死地を知った者がいた。その者はその地から離れた場所へと旅立とうとした。
「何か」が授けたお告げは、その者たちを同じ死へと導いた。
先に決まっていた死を告げられたのか、告げられたことで死が確定したのかは定かではない。その結末を覆す手段が存在するのかも、定かではない。
だが、ひとつだけ言えること。
『知らぬが仏』である。
<了>
知らぬが仏 亥之子餅。 @ockeys_monologues
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