後日談

 でも、ちがう。

 あれはひとじゃない。


 あのくるま、人がもう乗れるようなものじゃなかった。

 昼間ひるまなら遠目とおめでもそれはすぐにかる。

 車は塗装とそうげてぼろぼろだし、何より、何故なぜか分からないけど、車のなかいっぱい、ぎゅうぎゅうにだんボールばこまれていたから。なかに人が入れるようなものじゃなかった。


 あの駐車場ちゅうしゃじょう近所きんじょに住む友だちと自転車じてんしゃとおぎるとき、


「あれ、なに?」


 いたら友だちは顔を強張こわばらせて、駐車場なんて見もしないで、


「しらない」


 ずいぶん過ぎてから、


こわいから私、しらない」


 あおざめた顔に私はもう何もいえなかった。


 あの車には絶対ぜったい、人なんてれない。

 そもそもあんなふうに金網かなあみめぐらされていて、厳重げんじゅうとびらじられているのに、ねこでもないのに人間にんげん敷地しきちはいれるわけがない。


 朝になって違和感いわかん正体しょうたいづいて、背筋せすじえたものだ。


 夏休なつやすみもわりころ、ニュースになっていた。


 あの車のなかにはたしかにたくさんの段ボール箱がめられていた。


 そのなかにはたくさんの、わんちゃんのからびた遺体いたいほねもいっぱいあったらしい。その骨のなかには……。


 車は少なくとも2年以上放置ほうちされていたもので、その車だか、土地とちだかの持ち主は逮捕たいほされていた。

 夏休みだから朝からワイドショーもられたんだけれど、レポーターがしきりになんかいっていた。事件じけんほうじて近所の人にもずいぶんなんかいていたみたいだけれど、その内容ないようまでは覚えていない。テレビの向こうのさわぎはちょっと先の、同じ町のことなのに現実感げんじつかんはなかったなあ。


 夏休みがけたとき、私はそのことを話題わだいに出来なかった。


 あの駐車場の近所に住む子もだれ一人、なんにもはなさなかったから。


 話しちゃいけない、話すことではない。

 そんな雰囲気ふんいきがクラスに、学校中がっこうじゅうちていた。


 だから、そのどうなったのか知らない。

 あれが何だったのかも知らない。

 知りたくもない。


 そのうちわすれていた。


 こわはなし? 体験たいけんはないかって?

 そんなこと聞くから思い出しただけ。


 私の多分たぶん唯一ゆいいつの怖い体験談。

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花火の帰り道 @t-Arigatou

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