第4話  相棒の価値


自分の能力を明かすこと。

それは周りに自分の手の内を晒すことと同義だ。

それだけ、このデスゲームにおいて能力の比重は大きい。

そんな危険な手段を取ってでも、味方が必要だった。

必要なポイントを稼ぐために。

俺の【カイニウリハチ】は情報戦においては絶大な力を発揮する。

だが、ポイントがなければ、戦況を変えるほどの情報は得られない。





「ふ〜ん…。私が2周目ってことを知ったのはこの能力のおかげってことねぇ…」

「満足いったか?」

「ちょっと聞きたいんだけどさ」


伊村は端末の画面を指差し、聞いてきた。


「ここのポイントってみんなが今100ずつ持ってるやつだよね?」

「ああ。」

「うへぇ〜…。能力これ結構リスキーだね…」

「まあ、情報がほしけりゃ身を削れってことだろうな」


何事にも対価は必要。

等価交換。

それを体現したかのような能力だ。


「ちなみに、今残りいくつ持ってるの?」

「変わらず100だが?」

「…ん?」

「え?」

「え、待って待って。情報を得るためにはポイントを消費するって話だったよね?」

「そうだな」

「なんでポイント減ってないの?対戦でどれぐらい使ったのかは私にはわからないけどさ、少なくとも2周目の情報は買ってたじゃん」


あぁ。そういうことか。


「そりゃあ、買ってないからな」

「んん?私でも分かるように説明して?お願い」


そう言われ、理由を説明した。


まず、この能力の工程は大きく分けて3つだ。

初めに、運営への問いをプレイヤーが提示する。

次に、運営が各問いにポイントを設定する。

最後に、ポイントを消費して答えを買う。


これが通常の使い方。

だが、実際はある。


「そもそも、あんたが2周目ってことは予想でしかなかった。それの確証を得るために能力を使った」

「あのさ、あんたって呼ぶのやめて?あんたじゃなくて、海月」

「なぜ」

「なぜも何も、君が相棒になれって言ったんだよ?親密度は大切でしょ。あとちょっと腹立つ」


…怒られてるのか?これは。

非常にムスッとした顔でこちらを見てくる。


「…異性を下の名前で呼ぶのはあまり慣れていない」

「じゃあ慣れて?」


思った以上に強引だった。


「分かった?」

「…………………」

「返事は?」

「……………分かった」

「よし!」


すっごい笑顔。

わがままというか理不尽というか…。


「えっと、話を戻すぞ?」

「うん」

「もし仮に何も知らない俺が、海月と、1週目のプレイヤーの両方に、《あなたはこのゲームが初めてではないか》という質問をしたときに、その質問がより高い価値を持つのはどっちに質問したときだと思う?」

「より高い価値…?…多分だけど私に質問したときな気がするかな…」

「それはなぜだ?」

「後者に聞いた場合だと、その人がイレギュラーなことだけが分かって、それ以降の進展はない、と思う。でも、私に聞いた場合、イレギュラーなことが分かった上で、その後に情報を得ることができる。…ってこと?」

「ほとんど正解だ。分かりやすく表現するなら、聞く相手によってその問いの価値は変わるってことだ。問いの形式がYes/Noで判断できるものなら尚更」

「ふむふむ…?でも、それでどうやっ……ってあぁ…。そういうことか。私ともう一人別の人に対しての問いを運営に提示したってことね?」

「そうだ」


まず、適当な人物、今回は対戦相手だった片桐麻里を利用した。

運営は

《片桐麻里はこのデスゲームが初めてではない》

という問いには5ポイントをつけ、

《伊村海月はこのデスゲームが初めてではない》

という問いには68ポイントをつけた。

海月が2周目、もしくはそれ以上であることは一目瞭然だった。


「そういえば海月は結局何周目なんだ?」

「2周目…って言うべきなのかな?そもそも私は1回目のゲームで負けちゃった側だから、2周って表現が見合うのかは…」

「………なるほど」

「…というか待って!もう20時じゃん!明日に対戦があるかもしれないし、もう戻っても良い…?」

「あぁ。聞きたいことは聞けたし、戦略も立てられそうだ。急に呼び出して悪かったな」

「ううん。ちょっと面白かったから許してあげる。またね〜」


そう言ってそそくさと帰っていった。

やはり、1週目に何かありそうだな。

運営が口止めをしてまで海月を参加させた理由。

その情報は必ず俺に役立つ。

ゲーム初日に鍵を見つけられたのは大きい。

だからこそ、相棒の提案を持ち出した。

能力の相性も、1週目の経験値も、あの強引ささえも、











運営やつらを崩すには丁度いい。




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灰原旭は息をする。 もんたな @montanadayo

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