第3話  ゲーム開始


片桐麻里かたぎりまりは焦っていた。


今回のゲームは自分のもっている10枚のカードから7枚をどのように選ぶのかが戦略的要素となっている。

また、もちろん相手の考えを読む力も必要とされるだろう。

その点に置いて、麻里には自信があった。

元いた高校では成績優秀で自分の頭の良さをある程度自覚していた。

自分を高める道を歩み続けた麻里にとって、このゲームは良いステージだった。

おまけに、麻里が得た能力は、


【シリタガリ】

《ゲーム中に1度だけ、意識がある生物の思考を30秒の間読み取ることが出来る》


もし自分が危うくなっても、この能力があれば負けはない。

そう、確信していた。






(そのはずだったのに………!!!!)

ゲームは7回の対戦の勝ち点で決まる。

現在は4試合目。そして、麻里の勝ち点はゼロ。

もう後がなかった。

(待って待って待って待って待って待って………。…何が起きてるの…?うちはなんで勝てないの……?もしかして何かの能力…?いや、こんな強い能力があるものなのか…?)

相手の手を考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。

この4回目はできれば勝ちたい。

だが、《ジョーカー》はまだ出さない。

このタイミングで出してくるのは読まれている。

能力を使うこともしたくない。

次の対戦相手との戦いも不利になる可能性がある。

そんな考え方の時点で、すでにこの対戦で勝つことを諦めているとも言えるが。

そうして麻里が選んだのは《騎士》のカードだった。

もし負けても、まだ相手の《ジョーカー》を見破る隙はある。

そうやって自分自身を落ち着かせる。


「カードを裏返してください」


黒服のジャッジがそう言った。

互いのカードが姿を見せる。

麻里のカードは《騎士》。

相手のカードは…………、


《ジョーカー》。


読みは、外れた。

麻里は、負けた。


「《ジョーカー》を出した上での勝利が確定したため、灰原旭の勝利としてゲームを終了します」









1時間前




ちょうど昼飯がてら、焼きそばを食べていたところだった。


《対戦が確定しました。

 対戦場所:教室

 対戦相手:片桐麻里

 対戦時間:13時30分〜》


初日から対戦があるようだった。

見ていたテレビを消し、食べ途中だった焼きそばもしまって、準備をする。

5分前に教室に着いたが、もうすでに相手はいるようだった。

教室には2つの机と椅子が置かれており、それらは向き合っている。

机の上には10枚のカード。

恐らくプレイヤーが座るのだろう。

そしてもう一つ、自分たちのよりは少し大きめの机があり、そこには黒い服にサングラスのTHE不審者にしか見えない人物が立っていた。

立ち位置的にも審判役なんだろうが…。


「時間になりました。両者、1回目のカードを盤上に伏せて置いてください」


黒服がそう言った。

俺は予定通り、


(15…15…25)


俺は1枚を選び、伏せて置いた。


「カードを裏返してください」


相手のカードは《占い師》

俺のカードは《国民》


2回目


(25…15…15)


「カードを裏返してください」


相手のカードは《騎士》

俺のカードは《占い師》


3回目


(15…15…25)


相手のカードは《占い師》

俺のカードは《国民》


そして4回目


(20…10…10)

…攻めるべきか。


「カードを裏返してください」


相手のカードは《騎士》

俺のカードは《ジョーカー》


勝利が確定した。








夜、19時くらいだろうか。

俺は昨日から気になっていた人物にコンタクトを取ることにした。

端末にはプレイヤー全員に連絡がつながるようになっている。

その中から『伊村海月』に電話をかけ、相手の方から来てくれるとのことだったので、自分の個室で待機している。

というかもう来た。


「やっほ。君、旭くんだよね?」

「ああ。思ったより早かったな」

「そう?まあ、ちょっと慣れてきてるからね」

「慣れてる…?」

「他の皆にもこうやって呼ばれたんだ。誰かと話さないと後ろ向きな気分になっちゃうから、って」

「なるほどな。ああ、そこのソファ、座って良いよ」


そう言って伊村を反対側のソファに座るよう促した。


「君も?相談したいことがあるの?」

「相談…というよりは、確認したいことがある」

「確認?ルールについてなら端末を見れば分かると思うけど?」

「そうじゃない」


ルールは、な。

でも、それ以前にもっと前。

伊村が12人の代表かのように前に出て、話を進めたあの行動。

状況を瞬時に理解し、ゴールを見据えた上で自分たちの道を明確にする。

それにより12人の意識は、デスゲームという殺し合いの考え方に、共同体・チームという考え方が組み込まれる。

デスゲームなのだから対決することはあっても、無闇やたらに相手を陥れることをさせないための行動。

あれは、行動力があるというものよりも、もっと別の理由。

それこそ、さっき言っていた『慣れ』。

その『慣れ』の理由わけの『価値』はもう調べた。



「初めてじゃないんだろ。このゲーム」



「え…?」



「2回目なのか、3回目なのか、もっと多いのか。それは分からないけど、少なくともあんたはこのゲームをあの4月1日の時点で知っていた」

「………根拠は?確かに私は皆をまとめようとはしている、でもそれだけでその答えに行き着くものなのかな?」

「簡単な話だ。能力を使った」

「………そっ…か…。この場合は、どうなるんだろう…?」


この場合、という言葉。

それが指しているのは恐らく、


「口止めについてか?」

「…え。そこまで分かるの…?」

「もし初めてのゲームでないのなら、自分が経験者であることを最初に語るべきだ。そのほうが仲間もついてくる。だがそれをしなかった理由は運営側から止められている可能性が高い」

「…………それも能力で?」

「いや、これは独断だ。だから運営側がどう対処するのか不明だった。だが何のお咎めもないということなら、自ら漏らさない限りは認められるということだと思う」


そもそも、運営が他者にバレることを嫌がるのなら、2周目3周目のプレイヤーを使う必要などない。

それでいながら口止めはする。

その明らかな矛盾も、伊村が既プレイ者である理由が関係しているのだろう。


「その上で聞きたい。あんたの能力を教えてくれないか?」

「……なんで?一応言っておくけど、このゲームにおいて能力を明かすのは自分から死に行くようなものだよ?」

「俺の、相棒になってほしい。もちろん、俺の能力も明かす。」

「相棒…。」

「俺はあんたの経験で得た情報が欲しい。それに俺の能力は、詳細を知るパートナーが必要だ。あんたにとっても役立つと保証する」

「………分かった。でもすぐに信用するとは言えないけど、それでいい?」

「ああ。もちろん構わない」

「おっけー。じゃあ、私の能力から」


そう言って伊村は端末を見せてきた。


【ニタモノドウシ】

《触れた対象の能力をコピーする能力》


・対象の能力はコピーするまで分からない。

・能力をコピーできるのは1ゲームにつき1度だけ。

・一度触れれば、どれだけ期間が空いても能力をコピー可能。





「…どう?君の役には立てそう?」

「ああ。完璧だ」


少し、完璧すぎるくらいに。

そう言えるほど、能力の相性が良かった。


「そう?なら良かった」


そこから少し間を空けて伊村は聞いてくる。




「それで?君の能力は?」




俺の能力。

今回のゲームで勝利できた理由。

それがこれだ。







【カイニウリハチ】

《運営から自分の知りたい情報を買うことが出来る能力》


・ゲーム期間中、運営に異なる5つまでの質問をすることが出来る。

・運営はプレイヤーの質問に対して、その問いと答えが持つ価値を基準にポイントをつける。

・プレイヤーは質問につけられたポイントを支払うことでその質問の答えを得ることができる。









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