灰原旭は息をする。
もんたな
第1話 道化の言葉
弱肉強食。
弱者の犠牲の上に強者が栄える、自然の摂理。
生き残れなかったものはそれまで。
そこには理由も過程も存在せず、ただ「死」という事実のみが残る。
これは場所によらない。
自然の社会、人間が築いた秩序の社会、
そして、生死を賭けたちょっとしたお遊びにも。
一見、まるでありきたりな教室に見える。
床は新品のようにキレイで、少し違和感を覚える。
前方には濃緑の黒板があり、こちらも床同様キレイなままである。
1番左の窓側の列、その最後尾が俺の席。
横4縦3で計12の席が存在し、見慣れた椅子と机が置かれている。
机の上にはおよそスマートフォンに近いサイズ(スマホよりは気持ち小さい)の真っ白な端末が置かれていた。
ちなみに、電源はつかない。
そしてもちろん、各席に1人座っているが、皆動揺した様子でいる。
互いに見知らぬ仲でありながらも、何とか情報を集めようとしたのか、話し声が聞こえるようになったその時、
「はァ〜いみんなァいるかァなァ〜?」
反応に大小の差はあれど、誰もが驚いたであろう謎の声。その声は、教室の正面上方に設置されたスピーカーから聞こえてきた。
「うんうん。しっかァり揃っているみたァいだァねぇ〜」
その何とも表現し難い癖のある声は、この状況の不可解さを深めていた。
「やァやァ!
そのピエロ(?)はまるでこの教室の雰囲気とは真反対のテンションで自己紹介を始め、語りだした。
「
そう言ったピエロは一瞬話を止めた。
そして、こちらを威圧するような空気感で言い放った。
「正真正銘、デスゲームさァ☆」
中にはその言葉を予測していた者もいるだろう。
だが、その非現実性と微かな願望を理由に、脳が受け入れることを拒否していた言葉。
それが今、道化の口から放たれた。
「
そう言われ全員が救いを求めるように端末を操作し始めた。
先程は真っ暗だった画面も、急にエネルギーが補給されたかのように明かりがつき、扱えるようになっていた。
スマホが使える。それすなわち、なんらかの手段で外部に助けを求めることが出来るということ。
だが、現実はそう甘くはない。甘いはずがない。
「当ァたァり
だろうな。というか、使えるわけがない。
「ん?あァ。あァと、今日はァ2040年4月1日。日曜日だァかァらァ。…それじゃァあァ、みんなァ。死なァなァいように、
そう言って音声は止まった。
その後、ピエロが言っていた、「具体的な説明」を知るために、絶望に目を向けたものから前をむくように端末を操作し始めた。
そこに書かれていたことはこのようなことだった。
……………………ルール………………………
1、この端末を所持していることが、プレイヤーである条件となる。
2、毎週、1つのゲームがあり、その結果により各自が所持しているポイントが変動する。
3、ゲームの内容は、毎週月曜日に発表され、金曜日に終了する。ゲーム中の時間、場所、行動等は各ゲームのルールに従う。土、日は制限がなく、校内であれば自由に移動可能。
4、プレイヤーにはそれぞれ1つの個室が用意されており、自分のロッカーに端末をかざすことで転送される。
5、ゲーム中を除き、提供可能なものであればこの端末から何でも注文できる。食料でも娯楽でも、凶器でも。ただし、注文した物資を所持した状態でゲームに参加することはできない。
6、プレイヤーは初期状態で100ポイントを所持している。このポイントは各ゲームの結果次第で変動し、このポイントがゼロ以下になったとき、そのプレイヤーはゲームオーバーとなる。
7、プレイヤーには1人1つ、能力が与えられている。ただし、土、日に能力を使用することはできない。
8、全てのゲームが終了したとき、生存していることを目標とする。
……………………………………………………
説明通り、このルール文の下には「自分の能力を確認する」というボタンがあった。
それを押し、出てきた画面を見て思ったのは、
これをどう使えばいいのかという不安感だった。
自分の能力の扱いについて考えようとしたその時、
「ごめん、ちょっといいかな?」
そう言って教室の前に立ったのは1人の女子だった。
「みんなもさっきの話を聞いていたと思うけど、私はこれがデスゲームなのは間違いないないと思う。恐らく私達はこのあと、自らが生き残るために戦う。でも、このゲームの勝利条件は最後の一人になることじゃない。最後まで生き残ること。必ず全員を、とは言わないけどなるべくより多くの人が生還できるように目指すべきだと思う。どうかな?」
人前でここまで、しかもあの短い時間で自分の意見を作り上げて説明できるのはかなりの技術が必要だ。
この女子は人をまとめ上げるのに優れている。そう感じた。
そして、そんな女子に賛成の意を示すものは中々に多かった。
「俺もそうするべきだと思うぜ。自分が生き残るために他者を陥れようってのはピエロ共の策だろうな」
「うちも賛成かな。ただでさえクソみたいなゲームなんだ。雰囲気だけでも良くしていかないとすぐに壊れちゃうね」
もっともな意見だな。
たしかに、精神面での補強はこの場において絶大な影響を及ぼすと言える。
「ありがとう。早速だけど自己紹介をしよう かと思うんだ。まずは私から。
俺の席は1番左後ろ。そして伊村の席は1番右前。
つまり、自己紹介の順番は俺が最後となった。
「次、君だよ」
「あ、悪い。」
少しボーッとしてただけですぐ回ってきた。
12人だとこんなものか。
俺は立ち上がり、複数人の視線を受けながら答えた。
「どうも。
1年間、よろしくお願いします」
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