第5話
とにかく、連絡を取ってみよう。
夢にしろ夢じゃないにしろ、呑気にほっつき歩いてる場合じゃない。
「…あれ?」
ポケットを漁ってみたけど、スマホがなかった。
それだけじゃなくて、財布も。
服は高校の制服だ。
…いつ着替えたの?
…っていうか、なんで何もないの?
駅のホームに戻って、鞄が無いか探した。
だけど、見当たらない。
誰かに聞いてみようにも、もう誰もいない。
…嘘でしょ?
なんで、…無いの?
まあ、…そうか
ここが夢なら、別に無くても問題ないか
何を焦ってるんだろう。
普通に考えればいいだけじゃないか。
わざわざ、難しく考えなくたって。
夢とは言えど、せっかくこの町に戻ってきたんなら、自分の家に寄ってみようかな?
駅の正面に戻って、駅舎の中にある時計を確認した。
時刻は午後17時を過ぎていた。
もう夕方か。
空を見上げると、太陽はまだ高かった。
微かなオレンジ色が、海の向こうに見えた。
民家のすぐ裏手には、黄金ヶ浜海水浴場が見える。
穏やかな潮の流れが、徐々に傾く空の色の岸辺に漂っていた。
今日はまだ、潮が引いてないんだ
上田浦には、潮が引くと歩いて渡れる小さな島がある。
島の上には祠が在って、そこには神様がお祀りされている。
子供の頃、一度だけその場所に行ったことがあった。
祠はとても小さくて、とてもじゃないけど“祀られている”って感じじゃなかった。
だけどどこか、神秘的だった。
海の上にポツンと立つその島は、どこか寂しくもあり、美しかった。
とくに夕暮れ時の景色は圧巻だった。
夕陽が綺麗な日には、島いちばんの景色がそこに広がっていた。
そのタイミングで渡れたら最高なんだろうけど、初めて行ったその時は、まだ日は浅かった。
一緒にいた子がいたんだ。
その当時のことを、いまだによく覚えてる。
ブザービートはもう鳴っている。 平木明日香 @4963251
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