第20話

「どう、して、二人の回りだけ瘴気が薄い、の? 浄化を、している、なんて……」

「あら、残念。いいところまでいったのに。教えてあげましょうか? 貴女達人間の国の王や研究者は知っているわよ? 知らないのは勇者御一行様と馬鹿な人間達」

「どういうことだ!?」


 勇者が苦しそうにしながらも聞いてくる。


「私達が瘴気を取り込んでいるのよ。つまり、私達が世界を浄化しているの。分かるかしら?」

「じゃあ、魔王は、悪者じゃ、なくて、つまり、私達は、私達が邪魔をしていた?」


「ええ、そうよ。魔王と呼ばれる魔人。つまり私や魔王は瘴気を吸い込み世界を浄化しているのよ。それを殺せば世界は瘴気に包まれる。やっと分かっていただけたかしら?」


「嘘だ! そんな嘘を信じるものか!」

「馬鹿な勇者様達。聖女様はもうとっくに気づいているみたいよ?」


 聖女はガタガタと震えながら床に頭を付けて私達に謝り始める。


「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。私達が無知でした。私達が魔王を倒さなければ……」

「おい、グレイス! なんで謝るんだ!?」

「まだ気づかないの?? この二人が世界を浄化しているのよ!! 私達が浄化の邪魔をしているのっ。彼らの邪魔をすると私達は瘴気にまみれて死んでしまう」


 私はクスクス笑い、ファーストは聖女達を気にも留めず私にくっついている。


 私は勇者達の拘束を解いた。


「聖女はマシな頭をしているようね。勇者はどうかしら?」

「本当、なのか??」


 聖女は勇者の問いに答えず、ただひたすら平伏して私達に謝っている。


 その姿を見てどんどん顔色が悪くなっていく勇者達。


「あら、嘘だと思う? 気づいているかしら? 瘴気が薄くなっていることに」


 その時、初めて勇者は周囲を見回したようだ。

 魔法使いも既に地にひれ伏している。


 彼も魔力がある分、瘴気の流れが見えているのね。

 その姿を見た勇者や剣士が頭を下げた。


「もう、もうしわけ、ありません、でした。俺達は何も知らなかった。魔王を倒せば世界は平和になると信じて疑わなかった、んです。僕たちが魔王を倒してしまったから……」


 クスクス。

 面白い。

 人間の表情ってこんなにも豊かなのね。


 初心者ダンジョンで記憶を読み取っていたけれど、実際見てみると中々面白いわ。


「ウォー? そんなに面白いか?」


 耳元で話すファースト。


 ファーストの姿は人間には蠱惑的に映るらしい。

 チラッと頭を上げた聖女が顔を真っ赤にしてまた頭を下げている。


「面白いわ。人間って馬鹿な事ばかりしているんだもの」

「仕方がないだろう? 人間なのだからな」

「ファーは許してあげる?」

「俺? 興味ないな。ウォーの好きにすればいい」

「ふふっ。分かったわ」


 私は向き直って勇者達に告げる。


「私は前に忠告したわ? 無駄な殺生をするなって。何一つ聞いていないんだいもの。……さて、貴方達はこれからどうすればよいのかしら?」

「く、国に戻り、魔王が瘴気を浄化していたことを伝えます」


「いいわ! それで許してあげましょう。因みに魔獣もある程度は瘴気を吸って生きているのよ? 貴方達が各地で倒しまわったおかげで瘴気が増えているでしょう?」


「で、ですがっ、魔獣を退治しなければ人間が滅んでしまうっ」

「村を襲ったり、食糧や素材に必要な分だけ退治すればいいわ。今だって初心者ダンジョンはそれでやっていけているでしょう?」

「初心者ダンジョン? ま、まさか」

「クスクス。今頃気づいたの? そう、ずっと前から私達は人間に手を貸していたのよ? 国王は知っていると言ったでしょう?」


 私が話をしているとどうやら勇者達は全てを知り、項垂れている。

 もう私達に反抗する意思はないみたい。


「私達を殺せば全ての魔獣やダンジョンも無くなるわ。それこそ聖女一人じゃどうにもできないでしょうね。ご理解いただけたかしら?」


 そうこうしている間に魔王城の瘴気は少しずつ晴れてきている。


「さぁ、もう、国に帰りなさい? もうここへ来てはだめよ?」

「……もうし、わけ、ありませんでした」


 勇者一行は色の抜け切った顔で最後に謝罪する。


 私はそれを見届けた後、彼らを国に飛ばしてあげたわ。


「ファー、これからどうする?」

「そうだな。ここは瘴気が多いから種を作ってもまだ育てられない。当分動けないだろうな。ウォールも一緒に居ればいい」

「……そうね。最難関ダンジョンはほぼ造り終わったし、ドラン達がここに来れるくらいになるまでは居た方が良いでしょうね」


 私はそうい言うと、ドラン達に当分魔王城に住むことを伝えて種を送っておいた。

 その中にはファーの部下になる種もある。




「二人きりなんていつぶりかしら?」

「この間から一緒にいるだろう」

「あれは違うわよ。二人で生活するのはあの沼以来でしょう?」

「……そうだな。俺達は二人で一つなんだろうな」

「そうね。これからも宜しくねファースト」



 こうして新たな二人の生活が始まった。


【完】



 ーーーーーーーーーーーー


 今回も無事完結を迎えることができました!


 他のものと毛色が違った作品にしたいなーって考えて書いていきました。


 ここで少しご報告を…。


 8月頭に完結した『時を戻った私は別の人生を歩みたい』の番外編を来週からこっそりUPしていく予定にしております。


 仕事の都合上、更新頻度がかなり落ちて週1の更新になるとは思いますが…。

 お読みいただければ嬉しいです!(о´∀`о)

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黒の魔人と白の魔人 まるねこ @yukiseri

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