第19話
――コンコンコン
「ドラン? どうかしたの?」
「お眠りのところすみません。人間の国の王から至急来て欲しいと連絡がきております」
「……分かったわ。ありがとう」
目をこすりながらあくびをしてベッドから起きる私。
「……ウォール?」
「起こしちゃった? ちょっと呼ばれたから行ってくるわ。ファーは寝ていて」
「無理するな。俺も行く」
私はもう一度あくびをした後、姿を変えて初心者ダンジョンへと転移する。
ドラン達はダンジョンでお留守番になった。
私達はまた城に向かって歩き始めた。
前回は人間姿のファーと鳥のような姿の私だった。
今回はお互い羽根の姿のまま歩き始める。
街は変わってはいないがどことなく人々の顔色は暗いようだ。
「ムロー様、どうぞこちらに」
従者の案内で私達は謁見の間に通された。
「ムロー様!! おや、隣の方は……?」
「あぁ、気にしないで? ボディガードだと思ってくれていいわ。それでどうしたのかしら?」
「……それが。私達が居る街以外が日に日に瘴気が増してきておりまして人々は狂気のうちに暴れまわりはじめておるのです」
「あら、聖女は?」
「今各地を浄化して回っておりますが、全ての箇所で瘴気が増えていて手が回らないのです」
「勇者達が魔獣を倒し回っているんじゃないのかしら?」
「……そうです」
「馬鹿だな」
ファーストがボソッと呟いた。
「人々は気づき始めております」
「まぁ、そうでしょうね。ここら辺で公表するのでしょう?」
「そうですね。我々は間違っていたのだと」
「なら公表する前に勇者一行を借りるわ! 良いでしょう?」
「……構いません」
「じゃぁ捕まえてここに連れてくるわ」
国王、宰相、王妃と王子。皆私達に一縷の望みを掛けているようだ。
「今彼女達はどこにいるのかしら?」
「レーチャート地方のガレンの街だと聞いております」
「分かったわ」
私はファーストと一緒にガレンの街というところへ向かった。
私はもちろん場所を知らないのでファーストが転移する。
「聖女は浄化を頑張っているわね」
クスクス笑いながら街に入っていく。
「ウォール、楽しいのは分かるが控え目にな」
「……だってファーは痛い目に遭ったのよ? 少しは痛い目を見てもらわないと」
街の中心部に彼らは居た。聖女が街の中心から祈りを込めて浄化をしている。勇者達はそれを護衛する形のようだ。
彼らと目が合った瞬間、私は片手を挙げると地中から木の根が飛び出し、彼ら一人ひとりを捕縛した。
聖女だけは浄化中だったのでそのままにしてある。
「クスクス。勇者ごっこは楽しかったかしら?」
「!!! お前は!!」
「あら、私と貴方達の力の差は歴然なのだけれど、それもまだ分からないのかしら?」
「そんなことはない!!」
魔法使いが魔法で木を燃やそうとしているし、勇者は剣で切ろうとしている。が、びくともしない事に驚きを隠せないでいた。
「クスクス。ああ、聖女様。浄化は終わったかしら?」
「貴女はあの時の……」
「あら、よく覚えていたわね? ちょっとね、連れていきたい所があったのよ」
彼女は仲間を人質にされているせいか抵抗することはしないらしい。
「あら、別に殺そうとか傷つけようとか思っていないから大丈夫よ?」
そして私の腰に手を当ててエスコートするようにファーが前に出た。
「さぁ、行こうか」
木にグルグル巻きにされた勇者達と聖女は魔王城のあった場所に転移させられたのだ。
「こ、これは……」
「あら、聖女様、結界を張っていないと人間はすぐに死んでしまうのではないかしら?」
聖女は私の言葉にハッとしたのか結界を自分と勇者達に掛けた。
ファーが居なくなった魔王城からは瘴気が溢れだし、とても人間が立ち寄れる場所ではなかった。
二年という月日は魔王城を瘴気で埋め尽くすには充分の時間だったようだ。
さすがに聖女はすぐに気づいたらしい。
青い顔をして震え始めている。
勇者達は聖女の震える姿を見てようやく周りに目を向ける。
「……おい。嘘だろ?」
「二年でこんなに瘴気が……?」
「もっと奥まで連れて行ってあげるわ。大丈夫よ? この濃さならドラゴンでも難しいわ」
「ドラゴンも住め、ない?」
「ええ、そうよ」
私達は勇者達を引きつれて魔王城の中へと入っていく。
瘴気で空気が澱み、聖女の結界も限界に近いようだ。
「勇者達が苦しそうよ? 一度浄化を使ってはどうかしら?」
私の言葉でハッと思い出したかのように浄化を始める聖女。
ファーは私の腰に手を回しギュッと身体を寄せたまま口を開く事はないようだ。
「……う、そ」
「グレイス、どうしたんだ?」
勇者が聖女に声を掛けた。
「浄化が全然効かないわ。いや、効かないんじゃなくて瘴気が多すぎて全く追いつかない」
「早く浄化しないと勇者達は瘴気に蝕まれてしまうんじゃないかしら? 急いだ方がいいわよ?」
「全力でやっているわ!!!」
私達はその様子を面白そうに見ているだけ。
手を出すこともない。
すると、聖女が何かに気づいたようだ。
「ま、さか……。そんな、ことって……」
勇者達は徐々に苦しみ始めている。
「貴女達は一体、何者なの? 生き物の住めないほどの濃い瘴気の中でどうしてそんなに楽しそうなの?それに……」
「それに、何かしら?」
ファーストは聖女を揶揄うように私を抱きしめながら聖女に視線を向けている。
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