第9話 思いがけぬ継承

「べ、べべべべ別に僕は! おぉおッ、武器があるじゃないカ!!」

「そらあるだろ。武器屋なんだから」


 様子のおかしな男がそこにいた。

 かくかくと店内を徘徊しながらチラチラとこっちを見てくる。

 すぐに気付いたリリも「あっ」と声を上げて両手で口を覆いつつ、えへへと笑った。

 

 うん、君のせいで致命傷だよ。

 まあ彼に擁護出来るところはないけれど。


「あーっ、くそ。質の悪い武器が多いな! 僕の本気には耐えられそうにない」


 チラッ


「Sランクの僕に相応しい武器は……無さそうだね」


 チラッ


「チッ、埃ついてるぞ。ちゃんと手入れしているのか!?」



 ────うざい。何しにきたんだアイツ……。


 

 なんか一気に冷めた。


「リリ。俺が間違ってたみたいだ」

「あ、うん」


 ぼそっと漏らすとリリは綻んだ。

 今のは、この上なく説得力ある一言に違いない。


 そして現在進行形でその効力は増している。


「──ぬあ!? こんなところに綺麗な包帯が!!」


 ボロクソにイチャモンつけたり自己アピールしながら徐々に近づいてきたカナンがついに目の前まで来た。

 距離感に反して心の距離は海底よりも遠く離れてしまったが……この男はそれに全く気付いていないだろうな。


 カナンはゆらりとカウンターに置いた包帯に手を伸ばし──


「触らないで」


 ばしんとリリにはたき落とされた。


 伸ばした手は空を切り、カナンはよろめいてカウンターに両手で寄りかかる。


「こ、ここコんなところで出会ってしまうとはね」

「さすがにそれは不自然すぎるだろ」


 眉間の皺がひくついてしまう。

 そんな俺の表情などお構いなしにカナンは続ける。


「僕が作った戦闘用の包帯に見える……ジンジャーに使わせたものだね。前の小競り合いで千切って手に入れたものだろ」

「この店にしたように文句でも言いに来たのか?」

「いいや、そんな些細なことはどうでもいい。それよりもだな────したい」

「ん? なんて?」


「だから、その、ぁ、欲しいんだ」


 ゴニョゴニョ言っても何言ってるのか分からん!


「だからその────!」



「かっこわるい」

「へ?」



 ぴしゃりと言葉の刃が飛んだ。


 ごく冷えの視線でリリが彼を睨んでいる。



「言いたいことがあるなら言って。聞くだけ聞くから」


 魔力の流れは感じないので一見静かだ。

 だけど、それだけに彼女の怒りをダイレクトに感じる。


 カナンはたじろいで視線を泳がせ重心を後ろにやった。


「だからさっきから言ってるじゃん! 僕と、僕と……その、一緒に…………」

「続けて」


「……ぼうけ…………そう! 冒険者として応援してるって!!」


「応援?」



 カナンは口元をひくつかせ頭を右手でがんがん叩いた。

 

 それから意を決したように懐から一枚の紙を取り出すと俺に手渡してきた。

 

「これは……メモ?」


「そうだ。僕がスキルを発現するまでの流れを書き出してみたから参考にしてほしい。きっとより強くなるヒントがあるはずだ」

「確かにスキルには後天的なものもあるが……解せないな。どういう風の吹き回しだ?」


「っ、言っただろ? 応援してるって。それに人助けは巡り巡って自分のためになる。キミが僕に教えてくれたことだ」


 まあ、そんなことも言った気はするが……割と残虐な事に手を染めているお前が今更何を言っているんだ? とは思う。

 

 嫌なやつで、俺自身も散々な目に遭ってきた。

 だが、それに対して憎悪こそあれ、やはり何か報復してやろうという気はない。

 冒険者は時として非情な手段を使ってでも戦わねばならない時がある。

 

 俺が思う冒険者の美学には反するというだけの話だな。

 

「……継承か。ありがたく受け取っておく。だが、はっきり言うが、今となっては俺からお前に出来ることは何もないぞ?」

 

「そっ、それでもいいさ。それじゃあ僕は帰るよ。二人の邪魔をしたらいけないしね」


 リリと顔を合わせる。

 彼女は「?」を顔に浮かべた。


「ああ、あっそうだ」

 

 ────ふと、彼の末路を思い出す。

 単なる妄想でしかないが、これくらいは忠告しておいてもいいだろう。


「背後には気をつけろ──って、あれ」


 開け放たれた入り口から風が吹き込んでくる。

 伝えそびれてしまった。


「行っちゃったね。何しに来たんだろ」

「メモ渡しに来たんだろ?」

「うーん、そうじゃない気がするな〜。予定が狂って過程を飛ばして渡しちゃったんだと思う。勘だけど」


 リリの勘はだいたい正しい。

 まあ、もはや考える意味は無いが。

 

 それよりこのメモだ。


 二人で覗き込みながら声を合わせる。


 どうしたことか。


「読めんっ。鑑定が必要だろ」

「ふふっ、懐かしいね〜」


 彼は絶望的に字が汚かったのだ。

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追放したら『もう遅い』されたけど、納得いかないので足掻いてたらSランク冒険者にもなれたし健康にも良いしハッピーです!〜幼馴染と始める大逆転ざまぁ〜 ぱんまつり @eriku

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