第8話 英雄の残骸

 Sランクの条件は戦果にあらず、発見に在り。

 人類史に名を刻む大業に挑むとき、英雄の命を授けよう。


 冒険者百の心得、最終項より。



==========



「──ま、例外はあるぜ。悪人の末路が奈落とも限らねえからな」

「そうか」


 聞いたところで何になる。

 リリも変な顔しないでおくれよ。

 

 後ろ向きな思考は大敵だ。

 次へ進むために出来ることをしよう。


 何のために包帯を手に入れた?


 ここからヒントを、インスピレーションを得るためだろう?


「──しかし、付与魔法か。それで俺たちの調子が悪くなったというわけだな」

「そうだねー。まあ、ちゃんと申告してもらってたら、考慮した立ち回りができたんだけど……クソ野郎」

「ん?」

「なんでも?」

「そうか」


 舌打ちが聞こえたが気のせい、ではないだろう。

 リリは割としっかり感情を出すタイプだ。


 というか俺が──俺があまり文句を言ったりしないから代わりに言ってくれている部分がある。

 この幼馴染はそういうヤツだ。


「どうしたー? 顔になんかついてる?」

「いや、ちょっと考え中。カナンがSランクになれた理由が分かったから、俺たちも応用できるか考えてる」

「そうだね、カナン産の武器を仕入れて高難度クエストに挑戦するのも悪くないかも」

「ん、あー、それも良いが少し違うぞリリ。カナンの功績は実力だけでなく、発見だ」

「発見〜?」


 リリはこてんと首を傾げ俺を見て、それからアンダースを見た。

 アンダースは仕事に戻った。


「類まれな発見をした冒険者は将来性込みでSランクに推薦される。カナンはおそらく強力な付与魔法……あるいはスキルを買われたんだ。Sランクにふさわしいでかいクエストを達成したという情報はないからな」

「なるほど……なんだか発明家みたいな事をするんだね」

「人類への貢献だ。英雄っぽいだろ」

「うん! ぽいぽい」


 リリは目を輝かせ、眩い笑顔を見せて飛び跳ねた。

 腕まくりまでしてやる気十分だ。

 で、その発明方法だが、


「そういうわけだから、やっぱりもう一度カナンと会ってみようと思う。スキルには後天的なケースもあるし、何かきっかけでも……っ」

 リリの顔を見た。

 太陽は沈んでいた。


「また? 傷付くだけだよ」

「もう回復した。それに傷付いても大丈夫だ、今更痛くも痒くもない」

「っ、わたしが痛いの! これ以上あんなレントは見たくない!!」


 鳩尾を強打されるような。

 言葉にはそれだけの重さがあった。


「……俺たちの目的はなんだ。Sランクになることだろう? そのためにはカナンを頼るのが一番の近道だ」

「近道? 、いつからそんなぬるい事言うようになったの?」

「──っ」


 思わず口を両手で覆ってしまう。

 ハイライトが消えたリリの目は、俺の奥──ああ、何か遠くを見つめている。


 その様子に俺は何も言えなくなってしまう。


「今までの修練は、今までの冒険はきっと裏切らない。結果は自ずとついてくるよ」

「…………俺もそう思う、」


 何年もかけてAランクまで昇ってきたのだから進んできた道は間違っていない。

 そう言い切りたいところではあるけど、Aランクに至ってから既に4年が経過している。

 街を救うような大きなクエストもこなしたつもりだし、何が英雄たりえないのか今や分からないのだ。

 だから、

 

「けど……」

「けど?」


 リリは両手を腰に当てる。


「冒険すべきだと思う」

「というと?」

「カナンに聞く」



「こっンの〜〜〜〜、まだ言うかぁああ。レンは頑固すぎるよぉおおおおおお」


 地団駄を踏み鳴らし、リリは魔力を暴走させた。

 風が巻き起こり室内の埃が舞い上がり視界が少し白くなる。


 リリが文字通り嵐をかき分けるようにして迫ってくる。

 あまりの剣幕に俺は後退するもカウンターに背中がぶつかり、体勢が崩れたところをリリがふよんと体で押し込んできたため俺は右手をカウンターについてバランスをとった。

 顎に魔力の籠った人差し指を突きつけられる。

 

「ちょっ、殺す気か!? さすがに落ち着けって」

「ヒスってごめんね。でも落ち着くのはそっちだから。でも、あんなクズ男に頼るなんてありえない。ジンジャーだって酷い目に遭ったんだよ。だから……言うよ」


 ──からんからん。


 客の入店を告げる鐘の音がした。

 そっちを見やれば、おどおどして挙動不審な男が一名──件の男カナンだ。


 彼は数度首を振って、俺と視線を合わせてぎこちなく笑うとひょこひょこと歩み寄ってくる。


 その姿はまさに、初めて会った時と重なってみえた。


 けれど、この歩みは彫像のように止まる。


「わたしを見て。カナンは必要ない」

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