第7話 因果は巡る 『ざまぁ回part1』
──気になるか? まず考えつくのは武器へのクレームだ。それはもう山のように来るぜ。
無意識に低くなってしまった声のトーンに応じてアンダースが指を立て始める。
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宿の外から激しく聞こえる騒音で目が覚めた。
甲高い鐘の音だ。
「最近多いな……僕のスキルに欠陥なんてあるわけないだろ」
ひと月ほど前からポツリポツリと僕が付与した武器に対して難癖をつけてくる人が出てきた。
武器のせいにするなんてダサいにも程があるし、何より僕のスキルは完全無欠だ。
スキルが発現してから1ヶ月かけて独りで黙々と検証したし、何より自分やメンバーの武器に不具合なんて今まで発見されてない。
「あほらし……リサ、スリープ頼む」
奴隷に覚えさせたスリープで眠りにつく。
でも、心地よいまどろみのひと時はすぐに破壊されてしまうことになる。
「カナンてめえ! 無視すんじゃねえ!!」
「ひぃっ!?」
ハゲ男が部屋のドアを蹴破って突撃してきたのだ。
男はひどく息を荒げイキリ立っている。
激しく刃こぼれしたサーベルを床に突き立て破壊し、信じられないことを言ってきた。
「な〜にがSランクだ。てめえン武器のせいで彼女が死んだよ」
「は?」
「とぼけるな! 売るときに何か小細工しやがったな!? このサーベルは一戦ともたなかったぞ!!」
男が鬼のように見えた。
今にも襲いかかってきそうだ。
そうなっても負けるはずはないが聞き捨てならない。
「ぶ、ぶきを間違えたか余程酷い使い方をしたんじゃないの?」
「高い金払って手に入れた武器を間違えるかよ。それにてめえ、実際に見せてくれたじゃねえか。このサーベルはどんな鋼鉄も容易く切り裂くしどんな角度から打ち付けても曲がったり刃こぼれしたりしねえ。多少使い方を間違えたくらいじゃ、こうはならねえよ」
「そう言われても」
「金貨100枚、責任取れや」
「え?」
「さっさと出せ!!」
「ひっ、はイっっっ!!」
納得いかない。
切り刻んでやる。
むしろ論破してやる。
そう思ったけれど……自分よりデカくて気の強い奴には、ね。
結果として僕は銀行へダッシュすることになった。
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──築き上げた栄光、立場の崩壊。クレームに対応するのはいいが、百ゼロで認めちまって後手後手に回ったり揉み消そうとするのも良くないな。失敗はあれど武器の中にここだけは譲れない絶対的な強みだ、という部分を顧客にアピールできないと本当に終わりだ。擁護しようがねえからな。
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金貨100枚で手打ち出来たのはいいが、これからどうする? 不満を持っている連中は他にもいるぞ?
ひとりひとりに賄賂を渡していくか?
まずは武器を回収?
広報して良いイメージを流布?
くそ!
何も良い案が浮かばん。
「お前たち、今すぐダンジョンに出発するぞ」
だったらさっさと次のビジネスに移行する。
魔力結晶による付与人間プロジェクトだ。
人体に直接付与することはできない──という問題を解決すれば大きなビジネスになる。
魔法伝達効率の良い魔力結晶に付与して、これを人体に埋め込めばジンジャーのように身体能力が向上した改造人間が誕生するのだ。
絶対に成功させる。
市場に出回っている僕の武器たちは知ったことか。
さらなる名声で押し潰してしまえ。
「────ナンさん! カナンさん!!」
「ファ!?」
「大変です! これでは外に出れません!!」
「ッ、まさか!」
カーテンを開け放ち、窓の外を見れば
「ペテン野郎だと……」
プレートにはそう書いてある。
それに集団の矢面に立っているのはさっきのハゲ男じゃないか。
さっきはホクホク顔だったくせにどうして。
「どう、しますか?」
「カナン様答えて! どうするの!?」
「とりあえず一発シて落ち着いちゃいます?」
どうするも何も……また金を払ってしまったら僕はお前たちを奴隷にしておくことも……
「ぅ……あ、知らない。本当に知らない。僕のせいじゃ……ない!」
「っ、え、待ってくださいカナン様!」
僕は宿を飛び出した。
意味もなく走った。
全員を金で黙らせることなんて出来ない。
ちくしょう。
スキルで逆転できると思ったのに。
僕を馬鹿にした奴らにざまあみろって、唾をかけてやったのに。
レントほどの実力者が求めてくるほどになったのに──って、
「レント? そうだ」
あいつ、僕を欲しがっていたな。
Aランクで実力は申し分ないし、レントを頼りにすればまだ舞える。
これでいこう。
再起できる。
僕は特別な人間だ。
こんなところで終わるはずがない。
それに、こうなったのも元を辿ればレントのせいだ。
「責任、取らせてやる」
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